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第54話

「余裕もあるみたいだから、そろそろ本気で行くか」 「えっ……わわっ、ひゃ、」  余裕なんて。  反論しようとしたが、膝裏をぐっと持ち上げられて、腰の下に枕を突っ込まれる。  全てを晒すような恥ずかしい格好に慌てていると、同時にパチンと蓋を開ける音がして、指で探られた場所にローションを垂らされて万里は悲鳴を上げた。 「や、つめた、」  ものすごく冷たかったわけではなかった。だが、そんな場所に粘性の高い液体を垂らされるなんて生まれて初めてのことで、未知の感覚を表現するには今は脳の容量が足りない。 「少し我慢しろ」 「あ、う…っ」  久世は取り合わず、長い指が少しずつ入ってくる。  痛みはないが、心身ともに違和感がすごい。  つい息を詰めてしまうと、噛んだ唇にふっと吐息が触れた。 「ん……っ」  優しく口付けられて、刺激が分散する。  宥められながら指を受け入れ、ぬるぬると内部を行き来するのに少し慣れてきた頃、突然全身に衝撃が走った。  びくんと体を揺れて、中心に芯が通ったような感覚に目を見開く。 「あぁっ……な、に?やっ」  快感にしては鋭すぎて、さりとて痛みや苦痛ではない。  惑乱して縋るように久世を見たが、指は止まらず万里が強い反応を示す場所を探る。 「や、それ……っや、」 「よくないか?」 「わ、かんな……っ、あっ!ひ、」  いつの間にか入れられる指が増え、違う動きで中を探られて半泣きでシーツを掴んだ。  前を擦った時に得られる快感とは違うが、全く違うとも言えない。  溶けるような甘い愉悦ではなくて、気持ちいいと感じているかどうかもあやふやなのに、触られてもいない万里の性器は痛いくらいに張りつめている。 「やだ、や……っ」  己の反応が理解できず怖くなり、ふるふると首を振った時、ぴたりと指が止まった。 「……………?」  そっときつく閉ざしていた目を開けて滲んだ視界で久世を窺うと、相手も真剣にこちらの様子を確認している。 「うーん……結構本気でダメな感じか?」 「え……」  指が止まってしまうと、何か足りないような、切ないような心地がしている自分に気付いた。  もっとして欲しいと思ってしまうことは、気持ちいいと感じていたということだ。  久世は、どうやら怖がる万里を気遣ってくれたらしい。指が抜かれそうになって、慌ててその腕に手を伸ばした。 「あのっ……嫌じゃ、ない」 「ないけど、怖い」 「……………怖くない」  意地を張っても、お見通しの久世は指を抜いてしまう。 「まあ、そうだな。いきなり突っ込まなくてもいいよな」  今日のところはこれで、という雰囲気になり、万里は身を起こした。 「や……!ほ、本気で行くって言った!」 「焦らなくてもいいだろ。お前の準備ができるまで、ちゃんと待つから」  正しくその心情を読み取り、万里を気遣ってくれているのがわからないわけではないが、そんな風に遠慮されるのは嫌だ。  余裕そうな口ぶりの久世だって、汗ばんで、時折何かに耐えるように目を眇めている。  あんな下半身がスタンバイオッケーな状態でこんなことを言い出せるのは同じ男としてすごいとは思うが、こっちはもう延々とみっともないところを晒しているのだ。  少しは久世もみっともなくなってほしい。  心の準備は、できていないわけではない。  本当はもっと、続きが欲しい。 「後で文句、ちゃんと言うから……、俺が嫌がってるように見えても、遠慮しなくていい、よ……」  どうしたら、続きがもらえるのか。  大人な久世をどんな風に誘ったらいいかもわからず、震える手をのばした。

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