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その後のいじわる社長と愛されバンビ14

 万里としては、後でいいやという気持ちだったが、律儀に久世がバッグを取ってくれたので、中を漁り鳴動を続けるスマホを取り出した。  大学に姿を現さないことを心配した友人の誰かからだろうと勝手に想像しながら画面を見ると。 「げ、父さん」  家に連絡を入れるのをすっかり忘れていた。  いつも無断外泊はやめろと口を酸っぱくして言っているので、正直気まずい。 「俺が出るか?」  久世が気を使ってくれたが、それくらいは自分で始末をつけられると首を振る。  気まずくても、正直あのエブリナイトがフィーバーな父親にだけはそれを責められる筋合いはないと思う。  一つ深呼吸してから、通話ボタンをタップした。 「もしもし……」 『あ、もしもし万里ー?』 「父さん……その、」 『ごめんね、昨日も帰れなくて』 「え?ああ……」  どうやら、『今どこ?』の電話ではなかったようだ。  ほっとするような、今日は自分も同じ穴の狢だと落ち込むような、複雑な気持ちはしかし、次に投下された爆弾で木っ端微塵に吹き飛んだ。 『実は父さん恋人ができて、その人に引き留められちゃってて~』  ・・・・・・・・・。 「………………………………はい?」 『あっ、大丈夫!もちろん愛する妻は万里のママ一人だよ!』  いや、そういうことではなく。 『でも、妻の座は埋まってるけど、旦那の座は埋まってないでしょ?』  そういうことでもなく!  法に触れていなければ、恋愛に年齢や性別は関係ないとは思うが、父は見た目だけなら同年代の中ではいい方だとしても、中身がこれである。まともな神経の持ち主ならば、友人くらいなら楽しくていいとしても、真剣に恋愛をするのは無理だと思うはずだ。万里はそう思う。 「その……嫌なこと言って悪いけど、だまされてるとかじゃないよね?お金とか渡してない?」 『万里は心配性だなあ。父さんこれでも人を見る目はあるんだから』  なんという説得力のなさ…………! 『まあそういうわけで、しばらく彼のところから会社に行くから、家のことよろしく。万里ももう大人だし、大丈夫だよね?』 「ええ?」 『……あっ、うん!大丈夫、うちの子僕よりしっかりしてるから!』  横から話しかけられたらしく、少し遠くなった父の声がそれに応えている。  微かに聞こえたのは、低い声だ。  『旦那』と言ったのは比喩ではなく、相手は男性なのか……。 『今度、万里にもちゃんと紹介するからね。それじゃ、シーユー♪』 「ちょっ…………」  始まりと同じく唐突に電話は切れた。  衝撃の事実を受け止めきれず、万里はスマホを握り締めたまま硬直する。  息子として、父親の新たな出会いを祝福する気持ちはある。けれど、本人があの調子なので、不安しかない。 「鈴鹿さん、また何かトラブルか?」 「トラブル……っていうか……」  説明すると、久世は体をくの字に折って爆笑し始めた。 「はっは、あっはっはっは!相変わらずいいキャラしてるな、お前の親父さんは……!」 「俺は笑えないんだけど……。恋人ってあの、一億貸してくれたオーナーの上司の人とかじゃないよな」 「ああ、その可能性はかなり低いと思うぞ。あの人は来るもの拒まずだが、特定の相手を作ることはないって話だし」 「なるほど。……でも、その可能性が消えたところで、相手がまともな保証はないんだよな……」 「まあまあ、鈴鹿さんも大人だからな。その辺は信じて見守るしかないと思うが。何かあったら俺も力になるから、そんなに心配するな」  何かが起こることが前提のようになっているのは気のせいだろうか。  それでも、そう言われれば安心するのだから、自分も単純だ。  久世が笑いすぎで浮かんだ涙を拭いながら言う。 「その旦那さんを紹介してもらう時には、俺も是非二人に紹介してもらいたいな」  久世とのことを父に話すいいタイミングかもしれないが、カオスなお披露目会になる予感しかしない万里だった。

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