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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ18

 轟音の正体を考える間もなく、それまで暗かった窓の外が赤く染まる。  夕焼け?否、火だ。  この建物の周囲が燃えているのだ。 「(や、山火事…?いやもしかして、「お前がアデプトなら、こんな危機的状況から脱出できるだろう」とかそういう魔女裁判的な……?)」  試練を与えられているのかと青褪め仰ぎ見た男たちはしかし、万里と同じような表情(恐らく)をしていた。  しかも、見開かれた視線は逆に万里に突き刺さっている。  何故、窮地のはずの自分の方が恐ろしいもののように凝視されているのだろう。  その疑問に答えたのは、男達ではなく隣の久世だった。 「ふっ……、どうだ……、これでもまだ信じないのか?」  凄みのある笑いは、謎の確信に満ちていて、久世の想定していた事態のようにしかみえない。  信じる?万里は、一瞬久世が何を言っているのか理解できず、首を傾げてから、その意図に気づいた。  って、もしかして俺がやったことにしようとしてるー!?  確かに力があればとは思ったけど、いや……でも、もしかして本当に俺には秘められた力が……?  ………………………。  あってたまるかしっかりしろ自分。  ここで拘束されていただけの万里に、こんなことができるわけがない。  無理がありすぎるだろと焦っても、くだらないハッタリはやめろという声はどこからも上がらず。 「この力は、……やはり、導師様の、」 「まさか……、本当に選ばれたというのか……」  驚愕の視線を浴び、万里は頭を抱えたくなった。  導師様の力って爆発したり炎が出たりする魔法的なものなの!?  『暗黒の夜明け団』おかしすぎるだろ!  ……と、脳内のツッコミが止まらないのだが、もうそういうことになってしまっている以上、万里はその設定で事を進めるしかない。  彼らにこの火事について心当たりがないというのであれば、殊更早く脱出の策を練らねば焼け死んでしまう。  山火事を起こす力なんていらないから、誰かこの事態を何とかして……!という心からの祈りが天に通じたのだろうか。  ガンッとものすごい音を立てて、万里から見て左側にある扉が、外部からの衝撃で歪んだ。  何事かと男達が振り向いた瞬間に二度目の衝撃があり、噴き出した炎に押され一直線に飛んできた扉が彼らにヒットして、そのまま全員を巻き込みながら対角の壁にぶつかった。 「……っ、」  何だ今の。  言葉が出ずに固まっていると、炎の噴き出した扉の前に対の火柱が立つ。  まるで、どこか別の場所につながる門のように見えるそこから、炎を纏い現れたのは、数時間前に別れ、できれば二度と会わずに済んでほしいと思っていた男、九鬼紅蓮であった。 「なんだ?埃っぽい場所だな」  九鬼がバサリとケープを翻すと炎は掻き消え、悠然と二人のいる方へと歩いてくる。 「ど、……導師様……?」  九鬼が近付くと、何故かはらりと拘束が解けた。  コンクリの床に落ちた縄は、見れば断面が焼き切れたようになっている。  万里は、今噴き出した炎でたまたま焼き切れたんだよなと思うことにして正気を確保した。 「ふむ、我が組織の末端の者に誘拐されたと我が同朋より聞いてやってきたが、息災そうだな」  目の前で足を止めた九鬼に、無事を確認しながら聞かれ、万里はぎこちなく笑うことしかできなかった。 「それでその不調法者はどこだ?」 「え……?ええと、あそこです」  男達は、飛ばされた壁際で小山を形成している。 「……?知らん顔だな。それにあの濁った色…、我が主に望まれる器とも思えん」  相変わらず何を言っているのかよくわからない。  一瞥で知らないと断言したが、遠くから、しかも目出し帽をかぶったままで判別がつくのだろうか。 「(意味が分からないんだけど……外の炎とか、……いやあれ、もしかして何か……何かはわからないけど、フェイク?普通火がこんなに近くにあったら、もっと熱いんじゃ……)」  混乱を通り越して飽和状態の万里を余所に、九鬼は今度は久世の方へと足を向けた。 「貴様は我が同朋の片腕の一人、久世昴だな?お初にお目にかかる。我が名は九鬼紅蓮。暗黒の夜明け団の創始者にして、我が主の声を聞き、民衆に伝える神子であり導師である。どうだ、我が主のもとでその力を今以上に活かす気はないか?」 「お目にかかれて光栄です、導師。非常に魅力的なお誘いですが、どうやら俺には今の場所が一番あっているようでして」 「そうか。お前のような男とは、道が交わらぬのもまた一興というものかもしれんな」  そういうものなのだろうか。  とりあえず久世が引く手数多だということだけはわかった。  万里は、一応気になったことを聞いておくことにする。 「同朋っていうのは、オーナー……神導さんのことですか?」 「ああ。実に珍しい、同朋からの頼み事だ。聞くしかなかろう」 「珍しい……んですね」 「うむ。組織の長同士、ティーカップ片手に未来を語るものよかろうとよく誘うのだが、我が同朋は多忙らしく、返事があった試しがないからな」 「導師様、それは……、」  普通に、拒否られてるんじゃ……。

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