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楽しみは最後のバイトの後で
「おつかれさん」
カミナシ……神戸店長から花束を渡されて、僕は今日でコンビニ店員を辞めるんだと実感した。
夜勤の人たちに囲まれる中、優しい微笑みを浮かべるユキさんと号泣しているスギヨシが見えて安心する。
『正社員になれるように準備はちゃんとしなきゃね』
母親のようにずっと心配してくれていたユキさんの一言で卒業するまでと思っていた自分を立て直し、就活が始まる前に辞める決意を固めた。
それを今年になって増してきた厳しい指導をするスギヨシに言うと、かなりショックを受けたのか、力なくへたりこんだ姿は目に焼き付いている。
鳴りやまない拍手に僕はお辞儀をした。
でも、頭を下げた時に呟いた『ありがとう』はここの人たちにだけじゃないんだ。
僕が1年頑張れたのは彼ら……おいで屋のみんなのおかげだから
感謝しても、しきれないほど、お世話になったんだ。
「こんな立派な花束、もらってもいいんでしゅか」
相変わらずの舌足らずのモトは花束を持ったまま、僕が持つ注射器から出すお酒を頬を光らせて吸う。
「ツクの写生にでも使ってくれたら嬉しいかな」
なんなら、モトのアナルに刺す?とニヤニヤしながら言うと、身体を震わせて飲み込むモト。
「うまにゃったな、言葉責め」
そんなに飲んでいないはずなのに、目がトロンとして顔がほんのり赤いキヨは氷を指で回し、焼酎を煽る。
お祝いをしてくれると、サガとツクが作った料理とお酒を手に家に来たモトとキヨ。
最近はタチ組とネコ組と交互で癒しに来てくれるんだ。
しかし、1人足りないって気づいただろうか。
実は僕の髪を切ってくれていたカイリは今、ニューヨークにいる。
美容師として海外で勝負をしたいと、秋に行ったばかり。
カッコよくて憧れるんだけど、アレの時はかわいいんだよね。
「ペーター、今……絶対エロいこと考えたやろ」
「ぼくちんのこと、ぐちゃぐちゃにちてくだちゃい!」
もう彼らには見透かされているなぁって僕は諦める。
でも、彼らだからイヤじゃないんだ。
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