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第6話 ぬいぐるみのクリスマスパーティー
「パスタよし、ケーキよし、音楽よし!サム、ほら席について、クリスマスパーティーを始めよう!」
「うん!」
ケーキをオーブンで焼いている間に、ニッセは簡単なパスタを用意した。スパゲッティをゆでてミートソースを乗せただけのとてもありきたりなパスタだったが、一緒に食べてくれる人がいるだけで、いつもより美味しそうに見えるから不思議な話である。
「それじゃあ、メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
こうして、サムの初めてのクリスマスパーティーが始まった。
見よう見まねでパスタを食べたサムは口の周りをオレンジに染めて満足していた。まだ、目の前にはケーキもあって、どちらかと言えばそちらが主人公なわけだが、グルグルとフォークに巻いて食べたパスタは美味しかったし楽しかったとサムは思った。
「ああ、口の周りについちゃったね。ほら、サム、こっち向いて」
二人の距離は段々と近づいていた。
雪の魔女の呪いを忘れたわけではなかったが、ニッセの近くにいるとサムの心はポカポカと温まった。好きな人を目の前にしてドキドキと大きな音を立てていたサムの心臓も、少しずつ落ち着いてきているような気がする。
そして、ニッセも同じように、サムがいる生活に慣れ始め、欠けていたパズルのピースを見つけたようなしっくりくる感覚を楽しんでいた。
「んん、もう取れた?」
「ふふ、うん、もう大丈夫。サムはパスタ気に入ったのかな?」
「おいしい!でも、えっと、ケーキ、ケーキはいつ食べるの?」
サムはテーブルに手をついて前のめりになって尋ねた。
「っと、サム、危ないよ、椅子から落ちちゃう」
華奢な体をしっかりと椅子に座らせるとニッセは言った。
「ケーキはパスタのあとね」
「これ食べたら、ケーキ?」
「そうだね。でも無理に全部食べなくてもいいよ」
「大丈夫」
それからサムは先ほどの何倍もの勢いでパスタを平らげた。
どのくらい食べられるか分からなかったから、ニッセは自分がいつも食べる量を用意した。まさか、こんな華奢な少年が大盛のパスタをぺろりと食べてしまうとは思わなかった。
「サム、お腹いっぱい?」
「うん、でもケーキ食べたい!」
スポンジケーキだけでは物足りないからと、サムはキッチンを漁り、イチゴと生クリームでケーキを飾った。もちろん、周りを散らかしながらサムもデコレーションを手伝った。
それもあってか、ケーキは少し歪なのだが、二人の目にはこの世で一番美味しそうなケーキが映っている。誰が何を言おうと、特別なケーキは美味しいに違いない。
「はい、どうぞ」
「全部食べないの?」
「うーん、これ全部食べたらお腹痛くなっちゃうから、今はこれだけね?」
分かったと少年は言ったが、納得していないのは手に取って見えた。
そんな表情だってなぜか愛おしくて、ニッセは微笑みながらフォークで上手く掬って、少しずつケーキを味わった。
「んんん!これ美味しい!」
「良かった。ほら、イチゴも美味しいよ」
「うん!」
人間になってよかったと元黒猫人形の少年は思った。あのまま、人形のままだったら美味しいパスタもケーキも味わえない。それにそう、大好きなニッセと生活することだってできなかったはずだ。たとえそれが数日間だけのことだって。
サムは消極的な性格ではなかったが、積極的な性格でもなかった。自我を持って二日目、人間になって二日未満、危険な魔法を使ってでも会いたかったニッセに、自分の気持ちを伝えるなんて夢にも思っていなかった。
このまま一週間彼と生活して、七日間には雪となって消えるのだと決めていた。
だからこそ、この七日間を思う存分楽しみたかった。
「あれ、お腹いっぱいで眠くなっちゃったかな?」
「うーん……」
ケーキと合わせて食後の紅茶の淹れたニッセが部屋に戻ってくると、サムが目を擦って船をこいでいた。
幸せな気分だった。無論ニッセとの生活が始まって以来幸せなのだが、お腹がいっぱいになり、デザートまで食べた今、格別な幸福感と睡魔にサムは包まれていた。
「ちょっとお昼寝する?」
「ん……」
サムの真黒な髪の毛がさらさらと揺れた。
返事をしなくなった少年の体を抱えて、ニッセはソファーのあるリビングへと向かう。冬には欠かせなくなった暖炉の炎がパチパチと音を立てて部屋を暖めていた。
ソファー用の毛布をサムの体に掛け、ニッセは先ほど淹れた紅茶を楽しんだ。イチゴの香りが微かに漂う、特別な日のために取っておいた紅茶だった。
「不思議な子……」
その言葉がサムにはぴったりな気がした。
知らないことのほうが多いが、大切なことをすでに教えてもらった気がする。控えめだけどおっちょこちょいなサムをニッセは可愛いと思った。
このまま二人での生活を続けたらどんなに楽しいだろうかと想像してみる。
クリスマス休暇が終わり、近所の店が再開したらサムを連れて買い物に行くのも面白いだろう。ケーキもパスタも知らなかった子を、マーケットに連れて行ったらどうなるのだろうと考えるとニッセは楽しくて笑いを漏らした。
「それに服も調達しなくちゃ」
何色が似合うだろう、どんな服が好きだろうと考えただけでワクワクするなんて不思議な話だ。ソファーで眠るサムの髪を無意識に弄っていたニッセは、これから起こりうる二人の未来を想像して夢を膨らませていた。
冷たい現実が待ち受けているなど、この時のニッセには考えることさえできなかったのだ。
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