12 / 62

11

 くるりと鳴った腹の音に、侑紀はごろりと寝返りを打つ。 「腹…減った…」  食事に行く途中で拐われたせいで、胃の中は空っぽだった。  散々吐いたのも手伝い、侑紀は酷い空腹に襲われていた。 「汰紀っ!!飢え死にさせるつもりかっ!?」  そう悪態を吐き、ばたんと足を蹴り上げる。 「……」  けれど返る返事は当然のように無く。  侑紀は舌打ちして目を閉じた。  こんな風に兄弟仲が決定的になったのは…  香代子  ふと名前を思い出して目を開けた。 「名字は…なんだったかな…」  汰紀と同じ学年の、汰紀に初めて出来た彼女の名前。  そして、彼女の初めての男は侑紀だった。  きし…  この空間で軋む音は、汰紀の訪れしかない。  大の字に寝転んでいた体を起こして階段の方に顔を向けると、汰紀が盆におにぎりを乗せて降りてくる所だった。 「メシくらい言われる前に持ってこいよ」 「…」  不機嫌そうに上げられた眉に、しまったと慌てて口を押さえる。 「今、何時だと思ってるの?」  見ると目尻に微かな涙が滲んでおり、欠伸を噛み殺したのが分かった。  睡眠を邪魔したのだと言うわずかな罪悪感を拭うべく、鼻で笑ってそっぽを向く。 「時計も無いんじゃ、分かるわけねぇだろ?」 「ふぅん?俺が居ないから夜だとか、察する事は出来ないの?」 「はぁ?」  格子の間から入れられた盆を引き寄せ、そこに乗せられた歪なおにぎりに手を伸ばした。 「頭可笑しいんじゃねぇの?オレがお前に、なんで気を使わなきゃいけねぇんだよ」 「…まだ、立場分かってないの?」 「あっ…」  指先に届きそうだったおにぎりが避けられ、代わりに不機嫌そうな声が続く。

ともだちにシェアしよう!