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最終章
風が耳元で唸りを上げる。今度は私がソラスの身体を頭から包み込んだ。せめて、ソラスが助かれば。
ソラスは何やら喚いていた。私の考えは見透かされているようだ。
けれども私の身体は毒に侵され震え始めていた。万が一地面に叩きつけられるのを免れても助からないだろう。
目に光が差す。もう夜が明けたのだろうか。いや、違う。光は底から沸き上がっている。あれはもしかしたらーーーー
光が背中に触れた途端、全身が大きく脈打った。ソラスを離してしまいそうになり、腕に力を入れる。しかし、腕は段々短く縮んでいくではないか!
それとは反対に足や腹はむくむくと大きく膨らんでいく。顔は頭蓋骨ごと引き延ばされ、口は裂けて細かな牙が覗く。
皮膚は痒みに襲われ、全身に分厚い鱗が浮かび上がり、生えた端から乾燥して木の表皮のようになっていく。
背中がみしみしと音を立てて軋み、矢はいつの間にか抜け落ちていた。べりっと大きく皮膚が剥がれる感覚の後に、突如としてぶわりと風が立った。翼を羽ばたかせるたびに力が漲り、これが私の本当の姿だったのだろうと思い起こさせる。
私は肩甲骨を必死に動かした。飛び方は識っていた。草食動物が産まれてすぐ立ち上がるように、植物がひとりでに花を咲かせるように。しかしうまくいかず、何度も岩肌にぶつかってしまった。
ソラスは無事だろうか。私は滑空しながら彼を呼ぶが、喉から出るのは狼の唸りや鳩が喉を鳴らすような音だけだった。
私の鉤爪の生えた手の中のソラスは呆けた顔をしていたものの、傷一つなかった。
竜の顔をした私をその緑の眼に映すと、いつかの夜のように私の胸に生える鱗をなぞり、目を細めた。
さあ帰ろう。"かの国"へ。私達の来た場所へ。
私はソラスを大切に抱えたまま、朝焼けに似た光の中に飛び込んだ。
蘭の花の香が鼻をくすぐり、懐かしい唄声が聞こえた。
完
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