褥の上に横ざまに投げ出した緋立の身体は、背後から伸びた中納言の腕に囚われた。 　体温で温められて、中納言の衣から華やかな侍従の香が立ち上る。狩衣の袖にすっぽりと包み込まれて、緋立は腕を枕に目を閉じた。――これも罰だと思えば良い、と。 　中納言の指が乱れ髪を梳いて耳にかける。露わになった耳朶に唇がそっと押し当てられた。あまりに優しい接吻に、緋立は戸惑いを覚える。 　東宮がしたように、男の欲望を一方的に叩きつけられるのだと覚悟していた。それなのに、中納言の唇は情愛や慈しみを感じさせる。まるで恋物語の中の公達のように。 　耳を甘く食んだ唇は次に頬に寄せられ、それから顎に口づけし、そして首筋へと下りていった。喉元に吸い付かれると、ぞわりと肌が粟立つ。けれど、不快ではない。身体の奥から何かが湧き起こってくる感じがした。 「ぁ……」 　唇の感覚に気を取られていると、襟元から滑り込んだ指に肌を擽られ、驚いて小さな声が漏れた。 　首筋を吸う唇、胸元を這う指先。背中に感じる男の体温。すっぽりと緋立を抱きすくめる大きな体。鼻腔を擽るのは侍従の香か。それらを全身で感じ取るうちに、鼓動が速くなっていく。 「玉のような肌だ。白く滑らかで、吸い付いてくる……」 　中納言は良く響く太い声をしている。間近で低く囁かれると腰の奥が痺れるような感じがして、緋立は細い息を吐いた。これが男の色香というものか。 　宮中で見る中納言は、並外れた長身を黒の袍に包んだ見事な上達部だ。権勢の一族に名を連ねるに相応しい威厳を備えながら、どこか洒脱で風流でもある。その男が今、猛々しい雄の匂いをさせて緋立に覆い被さっていた。 「あ……ッ」 　滑り込んだ指先に乳を抓まれて、緋立はぴくりと震えた。そこから痺れるような疼きが走る。 　中納言が喉の奥で笑った。 「……敏感で好ましいことだ」 　抓まれたままの乳首から、痛みとも痺れともとれる感覚が鳩尾に走り抜けた。その痺れは鳩尾で渦を巻き、臍の辺りから下腹までジワリと溜まり始める。 「中、納言様……そこは……」 　請えば、小さな肉粒は直ぐに解放された。だが今度は乳輪をやわやわと撫でられ、油断しているとまた軽く抓まれる。戯れを甘受するうちに、熱はどんどん腹の奥に溜まり、知らず知らずに息が上がっていく。緋立は熱い溜息を吐いた。 　女のような膨らみもないというのに、どうして乳を弄られるとおかしな心地になるのだろう。 　中納言の指の間で、緋立の柔肉は硬く凝って何かを主張するように頭をもたげていた。肉粒が張り詰めてくれば、指に抓まれる刺激は一層強く感じられる。羽で触れるように、そっと撫でられるのも気持ちいい。乳輪を揉まれると、少し痛くて切ない気持ちに襲われた。 「あ、あぁ……」 　敏感になった先端を指に捕らえられ、鼻から抜けるような喘ぎが漏れた。一方的に奪っていった東宮とはまるで違う。中納言はゆっくりと緋立を愛撫し、快楽の何たるかを教えようとしているのだ。 「中納、……っ！」 　下腹が苦しくなって、無意識のうちに腰を退いてしまった。すると硬くなった中納言の逸物が尻に当たって、緋立は小さな悲鳴を上げる。愛撫に溺れて、中納言が何をしにきたのかを失念しかけていたのだ。 　今は優しく扱われているが、遊び慣れた中納言は獲物を逃がしはしないだろう。もう誰にも触れられたくないのに、あの苦しみをもう一度味わわされる。 　けれど怯える心を置き去りにして、緋立の肉体は中納言の思うがままに昂り始めていた。 　下腹に溜まる熱が、緋立の男の部分に荒々しい血を注ぐ。力を持ち始めているのがわかった。 　――触れたい……。 　手を伸ばしそうになるのを、緋立は堪えていた。若い性に手を添えて、溜まった熱を一気に吐き出したい。だが遊び慣れた先達の前でそんな醜態を晒せるはずもない。男のくせに、まるで女のようなやつよと嗤われては、二度と宮中に顔を出せなくなる。 　何とかこの感覚から気を逸らさねばと単衣の袖を握りしめた瞬間、甘い煩悶の声が緋立の唇を破った。 「は……ぁ、ぁっ……」 　両方の乳首が抓まれていた。胸から走る痺れるような疼きに、緋立は中納言の腕の中で仰け反った。 　きゅ、きゅ、と指に力が入るたびに鼻から吐息が漏れ、下腹に血が流れ込む感じがする。慌てて両足を閉じても、若い欲望の印はもう隠せない。単衣の間から滑り出る解放感に、緋立は白い頬を染めた。 「これほど感じやすいのに、先の男はとんだ無粋者だな」 　先の男が誰かも知らず、中納言が低い声で貶める。息を乱しながら、緋立は頭の中でだけ反駁した。あの御方はあまりにも身分が高いゆえに、俗な交わりの手管などはご存じないのだと。 　乱暴で一方的だった東宮との交わり。今思い出せば、いかにも高貴の人らしい堂々たる支配だった。 　暗闇の中で破瓜されたときの、そしてつい先ほどまで身を穿たれていた時の感覚が、体の芯にまざまざと蘇る。硬く力強く、怖ろしいほど猛った御印と、奥深くにたっぷりと注ぎ込まれた精の熱さ――。 「あッ、あ……ッ！」 　単衣の裾を捲り上げ、男の大きな掌が腿の裏を這いあがった。手慣れた指先は柔で敏感な肌を慄かせながら、まだ腫れたように熱を持つ窄まりへと辿り着く。 「痛ければ言え」 「ぁ、ん、んッ……！」 　長い指が肉を割って潜り込んだ。塗り込められた練り薬の残りと、東宮が体内に残した精が指の侵入を援ける。 　痛ければ言えと中納言は言ったが、痛みはほとんどなかった。それよりも溜まりに溜まった熱の根源を、内側から押し上げられる感覚が緋立を喘がせる。 「大事なさそうだな」 　その様子を見て喉の奥で笑うと、中納言は指を増やした。揃えて入れた二本の指が確かめるように中を探る。粘り着く水音と、濃くなった雄の匂いに羞恥心を掻き立てられ、体の熱が一気に上がった。 「あ、あ……もう……ッ」 　じん、と痺れるような疼きが下腹の奥から湧き起こる。痛いほど反り返った男の印が、体内の指の動きに合わせてヒクヒクと揺れ動く。温かな先走りの蜜が溢れ出て、揺れる砲身を伝い落ちていくもどかしいような心地よさ。 「……もう？」 　手慣れた男に耳元で囁かれ、緋立は歯を食いしばって呻いた。 　もう止めてくれと言うべきなのに、言葉が出てこない。尻の中を弄られるのがどうしてこれほど気持ちいいのだろう。指を呑んだ尻の奥から、波のような官能が止め処なく湧き起こってくる。余りに気持ちよくて、臍から下が蕩けておかしくなってしまいそうだ。 「あ、あ、気……持ちいい……ぃ……ああぁ、また……ッ」 　下腹を竦ませる甘い痺れが思考を奪う。今はこの悦楽を貪ることしか考えられない。 　無意識のうちに尻が揺れ、中の勘所を抉るように指先に擦りつける。小さな絶頂が下腹を襲い、終わりもなく逝き続けてしまう。 「あ、あ、果てる……ッ」 「まだまだだ。極楽浄土はもっと先にあるぞ」 　煩悶する若い体を抱きかかえて、中納言が笑った