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桜舞う空の下で・5
*
「おー、國安。リオ。こっちだ、こっち!」
「煌夜さん、理人さん! お花持ってきたよー!」
「ていうか、既に花だらけじゃねえか。せっかく俺とリオちゃんで選んで買ってきたのに入れる隙がねえ」
「大丈夫ですよ。詰めれば」
三月二十五日。晴れ。
大きな桜が咲き誇るその下で、俺は「母さん」の墓前に向き合い、笑った。
ずっと一緒にいたのに、ようやく知ることができた。ようやく会えた気がした。俺の桜、俺の生みの親──理人を除けばこの世でたった一人、いつも俺を見守ってくれていた母さん。
意外にも俺達の本拠地から車で二時間ほどの場所に、母さんのお墓はあった。調べてくれたのは理人が懇意にしている興信所の所長さんだ。その人は、俺が存在すら知らなかった母さんの全てを調べてくれた。
名前に年齢、出身地。どんな性格であったか、どんな物が好きだったのか。
俺を産んだ時に亡くなったこと。その後で俺の育ての母である女性と再婚した父さんとは、ちゃんと愛し合っていたこと。
お産の時、病室の窓からいつも桜を眺めていたこと。まだお腹の中にいた俺に、たくさんの優しい言葉をかけてくれていたこと──。
「……お袋さんの墓、見つかって良かったな。煌夜」
「理人が頼んでくれたお陰です。ありがとうございました」
「そういや理人さん、あのクラブの改装は進んでるのか」
「ああ。でも前みたいなクラブじゃなくて、普通のバーにしようと思ってる。空いてる階はテナント募集することになるかな」
「オープンしたら俺も弟分引き連れて飲み行くよ」
「ふうん。俺は連れてってくれないんだ? 別にいいけど」
「リ、リオちゃん! 違うよ、そういう意味で言ったんじゃねえんだ!」
「すっかり尻に敷かれてるな」
苦笑した理人が、取り出したジッポで線香の束に火を点ける。
「ねえ、そういえば理人さんと煌夜さんがやってたお悩み相談室って、今もまだ続いてるんでしょ?」
リオが花束の包み紙を剥がしながら言った。
「俺も風俗辞めたから、それ手伝いたいんだけど。煌夜さんの助手として!」
「お前な、リオ。俺達がやってるのはお悩み相談なんて甘いモンじゃねえんだぞ」
「でも最近一番新しく受けた依頼は、迷い犬の捜索でしたね」
「ば、ばらすな煌夜っ」
リオの言う通り、俺達の仕事は今も続いている。しかも柳田グループに一泡吹かせたという噂が瞬く間に広がったため、引っ切り無しに依頼が来て最近は俺も大忙しなのだ。
「確かに、助手がいてくれるのは助かりますね」
「やった! じゃあよろしく、俺頑張るから風俗関係の依頼は任せて!」
「リオちゃん、あんまり俺に心配かけないでくれよ……」
「國安もやくざ辞めて来ればいいじゃん」
「か、簡単に言うけど!」
仕方ねえ奴らだな、と理人が笑う。俺も笑った。
見上げた青空に桜が舞う。その一片ひとひら、一片が息を呑むほど美しくて、俺は思わず目を細めた。
大切な仲間と、大切な人。守るべきもの。そして俺の生きる道、俺の役目。
「煌夜」
俺の髪についた花びらを摘まんだ理人が、手のひらにそれを乗せて息を吹きかける。
花びらが再び空へと戻って行ったその瞬間、淡い桜の香りが俺の鼻先をくすぐった。それは俺の肩を抱き、一緒に空を見上げた理人が持つ優しい香りだった。
……いつかまた会うことができたら。
俺のこと、煌夜って呼んでくれますか。
柔らかな風が吹く。
その問いに踊る一片は、まるで笑っているようだった。
壮真理人のサードアイ/終
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