19 / 35

お題『呆気ない終わり』

「俺さ……結婚することになったんだ」  はにかみながらそう言って、  君は、残酷なほど幸せそうに微笑んだ。  ハラハラと、粉雪のシャワーが舞っている。  天候でさえ彼を祝福しているのに、  買ったばかりのホットコーヒーが、  俺の手の中で、みるみる冷たくなっていく。 「そっか。……おめでとう」  白い息と一緒に吐き出した嘘が、  冬の空気に虚しく融ける。  肩が震えるのは、寒さの所為だ。  アスファルトにじわりと沁みて、  君への想いは、  雪と共に呆気なく消えてしまった。  今はまだ上手く笑えないけれど、  凍てつく冬も、やがては終わる。  次に会うときには、  心から笑って「おめでとう」を告げるから。  だからせめて今だけは、  全てが溶け出すまで、  泣かせて。

ともだちにシェアしよう!