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第16話 王様の休日
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翌朝、スマホのアラーム音で目が覚めた。
スマホを掴み、修斗からの連絡の確認するがなにもない。
今日は文化祭の振替休日。
そして先々週から修斗と映画を見に行く約束をしていた日。
でもそれも、俺がキレたせいで全てなくなってしまった。
あんなに楽しみにしていたのに………。
目が熔けるほど泣いて泣いて泣き続けて、涙が枯れたはずなのに修斗の事を思うと自然と涙が頬を伝う。
昨夜泣きはらした目は瞼が重く腫れ上がり開けにくい。
喉が渇いたな……
鳴らないスマホを掴みリビングに向かった。
「………おはよう」
「おはよう、もう!昨日結局ご晩飯食べないで寝ちゃって……キャッ!!どうしたのその顔!泣いたの?!」
騒いでいるお母さんに構わず横をすり抜け、コップに水を注ぐとテーブルに着いた。
水を口に運ぶと、身体は水分をかなり欲していたみたいでとても甘い。
お母さんはぱたぱたと奥へ行ってすぐにハンドタオルを持って戻って来た。
タオルを水に浸して緩く絞ると開いている方の俺の手にのせた。
「これを目にあてなさい。腫れが引くわ。」
「ありがとう」
タオルを目に当てると腫れて熱を持っている瞼が冷やされて気持ちがいい。
「今日、映画に出かけるって言っていたわよね?昨夜もあまり食べてないから朝はしっかり食べていってよ?」
「………食べたくない。」
本当に食べたくないんだ。
こんな落ち込んだ気持ちで何を食べても美味しくない。
昨夜はあのままベッドに入り一晩中スマホを握りしめて泣いているうちに寝てしまった。
胃の中は空っぽのはずなのに食欲がわかない。
俺………昨日なんであんなこと……
思い出すだけで涙がじわっと瞳に溜まっていく。
タオルに目を押し当てて母親に気づかれないように静かに泣いた。
「もう、いいわ。せめてスープだけでも飲んでいってよ。」
「……うん」
お母さんはコーンスープを入れたカップを俺の前に置くと、すぐにキッチンに戻って食器を洗い始めた。
俺の事なんか放って置いて欲しいのに……
そう思いながらスープを一口飲むとふわっと優しい味と温かい温度が、俺の心と体を中から温めていく。
涙がまた……
俺は慌ててタオルを掴んだ。
ゆっくりとスープを飲み干した頃
「いつも通り初回に行くんでしょ?早く仕度しなさい。」
「…うん……」
言われるがまま俺は部屋に戻ると用意しておいたグリーンのシャツとベージュのパンツに着替え、お気に入りの黒と茶色のチェッカーフラッグ柄のボディバッグを背負った。
修斗と二人で見るはずだった映画を一人で見るなんて……
………嫌だな。
そう思いながら玄関で黒いスニーカーにのろのろと足を入れる。
「渚、こっち向いて」
「なに?」
ドアに手を掛けたところで呼び止められ背中越しに応えると俺の傍まで来て顔を覗き込んできた。
「目の腫れよ。うん、さっきよりましになったわ。」
「……」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
「いってきます………」
重い足取りで一人電車に揺られて映画館に向かう。
アクション映画「BUTTOBIZERO」二人で観るのを楽しみにしていたのに……。
前売りのムービーチケットを買って お揃いの特典クリアファイルを貰って二人で喜んでいたのに……
それももう悲しい思い出になってしまった。
今日は映画を見に行くのはやめて、どこか他の所に行こうか。
買い物とか、ゲーセンとかにしようかな。
…………映画以外の選択肢を色々考えるが、こんな落ち込んだ気分で行ってもどれも楽しむことなんか出来るわけない。
すぐにでも家に帰りたいけど、そんなことしたら またお母さんが心配しちゃう……
仕方なく時間をつぶすために当初の予定通り、映画を観てすぐに帰ることにした。
映画館のエントランスに入ると朝一番の回のため 人はまばらだ。
それでもグッズショップや、フードショップには家族や恋人達が並んだ短い列が出来ている。
エントランスの中央の柱の所に、見慣れた人影を見つけた。
その人はエンジ色のジャケットにブラックパンツ、肩から掛けているショルダーバッグは赤地に白のクロスラインが入っている。
あのバッグは彼が出かける時、必ず身に着けてくる……
これは俺の脳が見せている幻なのか?
ありえない。
だってその人って…………
立ちすくんでいる俺に向こうも気が付いて、小走りでこっちにやって来た。
「……おはよう、ナギ。」
「修……斗…?」
修斗は俺の目の前で深々と頭を下げた。
「昨日はごめん。ナギの嫌がること言っちゃって俺、ナギに聞いていたのに本当にごめん。」
まぼろしじゃなくて
本当に俺の目の前に修斗がいる。
俺が悪いのに……またこんなに謝って……
涙がとめどなく頬を流れ、ぽたぽたと足元の絨毯に落ちて染みを作っていく。
「でも今日は約束の………?……ナギ?」
修斗は絨毯の染みを見て驚いて顔を上げ、俺達の視線はやっと会った。
「修斗ぉぉぉ!!」
俺は思いっきり修斗の胸に飛び込んだ。
「ナ、ナギ?!」
「ぐすっ…うっく……ひっく……修、斗っ…ごめ…ご、めん、っ……」
泣きながら謝っているから、ちゃんと言葉になってない。
それでも修斗は解ってくれて両腕を俺の背中に回して優しく抱きしめてくれた。
「俺もごめん。本当に悪かったよ。」
「違っ、俺の方が……」
「でも初めに怒らせたのは俺だから俺が悪いんだよ。ごめんな、ナギ。」
「ううん、違う俺が……」
「………じゃあ、二人とも悪かったってことにして仲直りしよう。1つ目の命令のキャラメルポップコーン買わなくちゃな。」
「!」
修斗の胸に沈めていた顔を上げると すぐそばに嬉しそうな笑顔が俺を包み込んでいる。
「なにあれ?あの人達何してんの?」
「しっ!見ちゃ駄目よ。」
まるで痛いものを見るような親子の視線と声が刺さり俺達は我に返る。
ここが公共の場と言うことすっかり忘れていた。
慌てて抱き合った腕を放した。
もう、メチャクチャ恥ずかしい。
「ちょっと 端に行こう。」
修斗の手を掴んでぐいぐい引っ張ってエントラスのど真ん中から壁際に移動した。
昨日の最後のLIMEで修斗は……
『俺のためを思ってしたくもない命令をさせてしまって悪かった。命令は無効にしよう。無理に付き合うのはつらいだろう。もうやめにする。』
そう書いていたことを思い出して俺は恐る恐る聞いてみる。
「修斗……あの………昨日の最後のLIMEで……」
「あー、うん。ちょっと落ち込んでつい書いちゃったんだけど、その後すぐに『やっぱりさっきのなし!』って送り直そうとしたら電池切れちゃってサ……」
それなら充電したらすぐに送ればいいじゃないか、俺一晩中待っていたのに……そう思ったけど。
電源切って先に連絡たったの俺だしな………そんなこと言えない。
修斗は少し間を開けてぽつりと言った。
「………それで俺、自分自身に賭けをしたんだ。」
「賭け?」
「ナギが俺のことをまだ好きなら今日ここに来てくれる。来てくれなかったら諦めようって……」
ちょっと待て、それって……
あのまま俺が他の所に行っていたら本当に修斗と別れることになっていたっていうこと??
背中を嫌な汗が流れた。
「バカっ!!一人で勝手に決めるなっ!!」
「ごめん。でもナギはここに来てくれたじゃないか。俺……ナギの恋人になってもいいかな?」
この期に及んでまだ疑問形で聞いてくるなんて……
修斗を見つめる瞳にまた涙が溢れてくる。
でもこの涙は昨夜の悲しい涙じゃない。
「バカ……俺 意外の奴を恋人にしたら一生許してやらないからな!!」
修斗が一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニッコリと俺に微笑みかけ
「そんなこと絶対にならないよ。ナギ以上にかわ…… じゃなかった。俺はナギしか好きになれないから。」
「!!…………ひ、人が良すぎるよ。俺 こんな意地っ張りのやつなのに……」
「俺の王様はナギだけだからさ。」
「え?」
「本当、ナギが王様で良かったと思うよ。俺が王様だったら、ポップコーンじゃなくて毎日ナギを泣かすような命令をしているかもしれないからな。」
「???俺が泣される命令???」
「あー………それはまた今度教えるよ。」
「ずるいっ!!今、教えろよーっ!!」
「え……ゴホン。それはここでは言えないよ。あ、ほら!早くしないとポップコーン買う時間なくなるぞ!!」
「あっ!待って!!」
フードカウンターに向かう修斗の背中を慌てて追いかけた。
❤おしまい❤
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