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第19話
「渉!!逃げないで。ちゃんと僕と話をしよう」
「話だって?...あんたと話すことなんて何もねぇよ」
居間を出、玄関で靴を履こうとしていた俺は不意を突かれ兄貴に捕まり、そのまま兄貴の部屋へと連れて行かれた。
鍵を閉め、扉の前に立つ兄貴はガンとして俺を部屋から出そうとはしなかった。
「でも僕はあるんだよ、たくさんね。それに僕もあの誕生会には嫌気がさしていたんだ。ふふっ、渉と一緒だね。あ、もしかして渉も僕と2人きりになりたかったのに、それができなかったから苛々してたの?」
「....、」
あーぁ、また始まった。兄貴の頭の湧いた妄想が。
俺が何を言っても聞こうとしない。自分の都合のいいことしか考えない。
「そう言えばさ、僕へのプレゼントは?ねぇ、用意してくれたんでしょう?」
ニコリと笑み、手を差し出す目の前の男。あるはずもない俺からのプレゼントを強請るのか。本当、自意識過剰。
「はっ、何言ってんの。あんたみたいな奴にあげるもんなんて何もねぇよ」
「あ、分かった。もしかしてどこかに隠してるの?直接渡すのが恥ずかしいから...―」
「いい加減にしろよ!!」
「...渉?」
ダンっ、と近くの壁を殴り兄貴を睨む。もう、こいつは普通じゃないんだ。おかしいんだ。
こいつのせいで周りもおかしくなっていくんだ。
「俺はあんたが嫌いだ。あんたの全てが嫌いだ...イラつくんだよ。兄貴がいるせいで俺はまともな生活さえできない。あんたのせいで全てが狂ってくんだ!!あんたなんかいなくなれば良いのに!そしたら...そしたら俺は...ひっ、」
「じゃあ、具体的にどうしたら僕のことを見てくれる?僕だけを愛して、僕のことだけを考えてくれるんだ?」
急に目の前に現れた兄貴は俺の両肩をギュッとつかみ、瞳を覗きこんでくる。
人形のように表情の読めない顔。いつもなら妄想を吐きだすだけなのに...
「それじゃあ...んで..よ。」
「渉、聞こえない。もう一回言って、」
「...っ、死んでくれって...言ってんだよ!!死んでくれたらいくらでもあんたのこと好きになってやる!あんたの想う通りの俺になってやるよ!」
そう言い切ると俺は強く兄貴を押し、扉の鍵を開けるとそのまま勢いよく玄関へと走っていった。
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