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唯我独尊、殴り合いエクスタシー

 唯我の握った拳が独尊の頬に当たる。しかし次の瞬間には逆に独尊の拳が唯我の頬に当たった。  拳の骨と頬骨がぶつかり合い、ゴツリと嫌な音が互いの体の中で鈍く響く。  きっと夜には不格好に腫れ上がるだろう頬を想像すると、互いの腰がゾクリと震えた。 「気持ちいいナァ、唯我」 「そうだな、独尊」  唯我は舌舐めずりをし、がら空きになった独尊の腹を殴る。腹筋が拳を押し返してくるような感覚に胸が躍り、独尊もまた間髪入れずに唯我の腹を殴り返してくる。痛みと込み上げる胃液がたまらなく気持ちいい。  唯我と独尊の父親は地元では名の知れた暴走族の元総長で、母親はその傘下のレディースの特攻隊長だった。  そんなふたりの間に生まれた双子の唯我と独尊は、幼いころ父と母の特攻服に憧れていたが、それでも時代の流れに“そういう文化”は廃れていき、唯我と独尊が高校生になる頃には世間から消えていた。  それでもカエルの子はカエル。ふたりは両親にならえと言わんばかりに、喧嘩三昧の日々を送っていた。  路上最強の喧嘩兄弟。そんなあだ名で呼ばれるようになったのはいつからだったか。 しかし唯我も独尊も自分たちより弱い者ばかりが相手で、毎日強さに飢えていた。  そんなときにふたりが思い当たった強い相手。それがお互いだった。  純粋な殴り合いに、唯我も独尊も興奮した。  こんなに誰かを痛めつけることも、なにより痛めつけられることもなかったのだから。  遠慮なく殴ることの気持ちよさも、思い切り殴られることの気持ちよさも、全てが興奮材料だ。  唯我と独尊は瓜二つの容姿をしている。  同じ顔をした、形の良い眉毛につり上がった大きな目。違いはひとつ。泣き黒子がある方が唯我で、無い方が独尊だ。  ギリシャ神話のナルキッソスは水面に写った自分に恋をしたというが、ふたりはこれに似ているようで似ていない。  唯我にとっては黒子の無い独尊が、独尊にとっては黒子のある唯我が美しいと感じるのだった。  そんな美しいと思う相手を互いに殴り合うと、じわじわと股間が熱くなる。  唯我は内蔵をえぐるような痛み、独尊は脳が揺れるほどの痛み。  殴り合うことで互いに愛を感じる。  お互いにそんな痛みを与え受けながら、ついにふたりは自分たちの穿いているズボンの中で白濁が放つのを感じた。  ぴたりと手が止まる。それが終了の合図だった。  形の良い眉毛が垂れ、快楽に溺れた顔を互いにさらす。  どちらともなくむさぼり食うようにキスをする。まるで儀式のような、ふたりだけの時間だ。 「あーあ、まただよ」 「さっさと帰ってシャワー浴びようぜ」  儀式が終わればまるで普通の兄弟のように、そんな会話を交わしながらふたりは家路についた。  ◆ 了 ◆

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