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第11話

 「日向の家に住むって、どういうことだよ!!」  「んー、穂波声でかいよ。耳がキンキンする。」  人の部屋に入るなりベッドの上に横になる二葉を鋭い眼差しで見下ろす。  今日、日向が来ないとわかるやいなや二葉は勉強そっちのけで枕に顔を押し付けては匂いを嗅ぎ、満足そうに鼻歌なんかを歌っていた。  こっちが怒りを向けても、当の本人は振り向こうともせずにその行為を続ける。そんな二葉に俺は嫌悪と侮蔑の視線をぶつけ、顔を歪める。  「あーっ!いやいやいや!!返してーっ、」  「俺の質問に答えろ」  乱暴に枕を奪えば、二葉は細い腕を必死に伸ばして俺からそれをとろうとする。  しかし、身長差から無理だと諦めたのか拗ねた様子で俺のことを見てきた。  「なんで日向の家に住むことになったんだ。わざわざそんなことしなくても、今まで通り家から俺のところに来ればいいだろ」  「だって、日向さんが誘ってくれたんだもん。夏休みの間、一緒に住まない?って。必要なものは全部用意する。二葉はただ家にいて自由にしていればいいってさ。僕は遠慮したんだよ?でも日向さんが毎日のように誘ってくれるから...」  「...っ、」  ギリリと歯を噛みしめる。苛立ちのまま拳を握れば手の平に深く爪が食い込んだ。  「嘘、つくな...っ!お前が、日向に無理を言ったんだろ。今からでも遅くない...断れ。日向に迷惑をかけるな」  「嫌だよ。僕は行く」  「二葉!!」  持っていた枕を放り投げ、二葉の胸倉を掴む。それによって起き上がることを強制される華奢な体。  俺の体は怒りで微かに震え、心臓はバクバクとうるさく脈打つ。 それなのに二葉は怖がる素振り一つせず...まばたきもすることなく近距離で俺の顔を見つめてきた。  「ねぇ、穂波は日向さんのこととなるとすごく必死になるよね」  「...っ、日向は俺の親友、だから...」  「本当に、それだけの理由?」  肌も白く人形のようにきれいに整い、口元以外動かないそれは人間味が感じられない不気味さを醸し出していた。  「まぁ、でもその分穂波は僕を見てくれるようになった」  クスリと笑う顔。その表情がどこか異様に感じた。そして同時に恐怖が生まれる。  「わっ。あ、穂波どこにいくの?」  すぐさま俺は二葉から手を離し、部屋を出て玄関に向かって駆けだす。  思い出されるのは過去のこと。あの微笑みが怖い。怖かった。  なぜなら昔からあいつに恐怖を与えられるさい、いつも向けられたのはあの微笑みだったから。  だから、情けないとわかっていても、それでも俺は本能的に逃げ出しだ。    長いまつげに囲まれた大きな瞳は細まり、ほんのりと赤い唇は弧をえがく。  「...クソっ!!」  震える体。しかしそれは先程までの怒りからくるものではなく....―――恐怖からくるものだった。

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