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第36話

マンションの部屋に着いてすぐ。穂波を出迎えた二葉はずぶ濡れのその姿を見て驚き、慌てた様子で浴室に連れて行った。 そしてシャワーを浴び終え、脱衣所に出ればサイズがピッタリと合った新品の服と下着が置いてあり、穂波が身につけていた服などは洗濯をされたのか、干されていた。  「こんな時のために前から服を用意してたんだ。全部、僕が選んだんだよ」   ガチャリ、と音を立てて開いた扉の隙間から二葉の声がする。すぐに穂波は焦りながらも扉の取っ手に手をかけ、無理に押して閉めた。 「今まだ着替えてないから開けるな、」 「そんなぁ、今更じゃん。僕たちの仲だったら」 「...いいからっ、」  そうすれば、「まぁ、いいけどさ」と、諦めたのか二葉は何処かへと歩いて行った。  頭の中を占めるのは日向につけられた情事の痕。こんな明るい場所だと、それら全てを二葉に見られてしまう。...どうにかそれだけは避けたかった。  二葉が選んだこれらの服などを身につけるのは正直嫌だったが、裸で出るわけにもいかず結局大人しく着替えることにした。  ―それにしても、本当に気持ち悪い。  服自体は穂波が好む系統で良かったのだが、いかんせんそれは二葉が選んだ服ということが生理的な嫌悪を心に生まれさせた。前々から用意していた、というのもどこか気味の悪さを増長させていた。  ―思えば、あいつは小さい時から人形遊びが好きだったな...  自分の思い通りの服を着せ、思い通りの言葉を話し、思い通りの行動を為す人形を愛しがっていた...―――“ホナミ”と、そう人形のことを呼んでは、  「...ッ、」  そのことを思い出し、背筋をゾッとさせた。だが、今日で話をつけるんだ。自分のことはもう、半分諦めが入っている。  どうにかして、日向だけでもあいつから救い出さなければ...  ―  ――  ―――    「それにしても今日は本当雨がすごいよね。穂波、ちゃんと体温まった?僕、ずぶ濡れの穂波を見てすっごく驚いたよぉ、」  「傘を持ってきてなかったんだ」  「そっかぁ。さっきまでは晴れてて雨降り要素は全くなかったもんね」  「あぁ、それより...もう自分でやるからいい、」  着替えて居間に行ってすぐ。二葉は穂波を床に座らせ、自分はソファに座るとその段差を利用して穂波の濡れている髪の毛をタオルで拭き始めた。  それを嫌がる穂波だが、二葉は一向にやめようとはせず「いいから、お世話させてよ」と嬉しそうに笑いながらその行為を続けた。  そうなってしまえば、今までの経験上、二葉の気が済むまで行為は終わらないと、諦めた穂波はソファに背を預けて目を瞑った。  『俺、穂波先輩のことがきっと...---好きなんだ。』  「...っ、」  思い出させられるのは、松高のこと。心臓は早く脈打ち、触られていた唇は熱く感じた。  その間もなにやら二葉は話しかけてきていたが、穂波の意識はそちらには向かず、てきとうな相打ちばかり。  意識の中心は松高に向けられていた。

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