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第40話

 「愛してるよ、凪」  その“セリフ”を最後に春臣の中で奏多の役は終わる。  目の前にいるのは先ほどの興奮した様子は何処へやら、いつにも増して感情を無にした千晶がいた。  「もう、いいだろ。早く退けろよ」  グッ、と退かせようと千晶の体を押せば、思いのほか抵抗もなくその体は春臣から離れた。  自分の性器から尻にかけて、どろりとした白濁が伝うようにしてその存在を主張していた。それがただただ気持ち悪くてすぐに洗い流そうと春臣はシャワールームへと向かった。  「起きたなら自分の部屋で寝ろよな」  シャワーを浴びる間際千晶に聞こえるよう大きな声でそう伝えた。それに対する返事はなかったが、そのすぐ後にバタンと扉が閉まる音が聞こえた。  きっと千晶は帰ったのだろう。帰るよう促したのは自分だが素直な千晶の行動に僅かに驚く。  しかし、嫌いな人間がいなくなったことで部屋の空気が軽くなった気がした。  そうして春臣は気分良くシャワーを浴び始めた。サァ、と温かい湯が春臣の体の“汚れ”を洗い流していく。  夜中に目覚めたとは思えないほど、頭は冴えていた。そして、千晶との先程の情事に関しても今までと違い大してショックは受けていなかった。  それもこれも、自分自身が演技をしていたからだろうか。前に演技をすればいいと思い込もうとした時には落ち着かなかった心も、実際に演技してしまえば何のその、いつも通りの自分がそこにはいた。  これは俺じゃなくて“奏多”の物語。俺はそれを演じているだけ。奏多ならきっとこう言う。奏多ならきっとこうする。そう考えながら動けば何も傷つくことはなかった。  - なんだ、意外にいけるんじゃん。  誠太に無理矢理フェラさせられたり、千晶に強制的に自慰させられた時に感じた恐怖感や喪失感などはあまり感じていなかった。  ここまできたら自分の神経の図太さに拍手を送りたくなる。  - といっても、これも全ては京太とともに俳優業を続けるためだ。  あくまでも、これが大前提である。この希望があるからこういう方法でも耐えられるのだ。  「台本なんていらない。俺は奏多にだってなりきってやる」  不思議な高揚感が湧く春臣。前とは違い、今は涙を流すことはなかった。

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