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第53話

 ゆらゆら、ゆらゆら。  それは視界の端で揺れる自身の脚だった。  「春臣君、春臣君、好き、大好きだよ。すごく気持ちいい、春臣君とまたえっちができて嬉しい。幸せ過ぎてどうにかなっちゃいそうだよ。ねぇ、このまま中に出していい?お願い、いいよね、春臣君もその方が嬉しいよね」  熱に浮かされ、掠れた声。春臣の尊厳も何もかも奪い犯す目の前の男が何を言っているのかわからなかった。  そして、自分の口からは言葉でも何でもない、ただの喘ぎ声だけが紡がれる。  ― あぁ、こんなに声出してたら喉潰れる。そしたら仕事に影響でるし...  半分意識を失いかけている春臣だが、ぼんやりとそんなことを考えた。  2人を中心にしてベッドのシーツに広がるシミ。そしてシーツの端には吐瀉物があった。  それは春臣が誠太に犯され善がる体と打って変わって拒絶、嫌悪感を示す心が耐え切れずに吐き出したものであった。  男に犯されるなんて絶対にありえないし考えたこともなかった。春臣にとって最低最悪なセックス。  けれども自身は喜ぶように何度も射精した。  徐々に激しくなる腰の律動。パンパンと肉が肉を打つ音やどちらのものかわからない精液で鳴る水音、自身の喘ぎ声、それら全てが耳を犯していく。  男に犯されたショックで春臣は頭が真っ白になっていた。  「孕むほど犯してあげるからね」  体の奥深くで穿たれ、放たれる迸り。  春臣の中でイッた誠太は至極幸せそうに笑み、薄く開いた春臣の唇に噛みつくようなキスをした。  ――  ――――  ―――――――  「楽しかったね、春臣君!あとで全部写真と動画とちゃんと保存しておくから安心してね!」  連れてこられた時と同じ黒い車から降ろされ、茫然とする春臣に誠太は窓から笑顔を向ける。  それじゃあね、と手を振ると車は発進して春臣だけを置いて行った。  既に空は暗く、街灯の明かりがなければ辺りは暗闇に包まれていた。  降ろされた場所は近所のスーパーで目の前には自身の車がある。しかし、未だショックが抜けない春臣はただただその場に立ち尽くすばかりであった。  そんな時、スマホの着信音が鳴る。何気なく画面を見た春臣はそこに写し出されていた名前を見て狐のように笑った。  ― あぁ、ちょうどいいじゃないか。  通話ボタンを押して電話に出たその声はいつも通りの仮面を被った春臣であった。  「もしもし、春海さん?どうしたの、こんな時間にめずらしい」  電話口から聞こえる高い声は緊張しているのかやや震えていた。  ― 俺の尊厳を保たせてくれよ、可愛い可愛い春海ちゃん。  男に犯されて受けたショック、傷は女とセックスして忘れてしまえばいい。  ― 上塗りして忘れるんだ、あんな記憶。  いつもならスキャンダルを気にして相手にしないが、今の春臣は自身の尊厳を保つのに必死であった。  春海は春臣を慕い、好意を寄せる相手。それに見目も悪くない。  やる相手として申し分なかった。  「ねぇ、春海さんこれから会わない?夜も遅い時間だし、よかったらでいいんだけど」  春臣の誘いに対して喜ぶ声。そうして春臣はBARにて春海と待ち合わせすることになった。    「私嬉しいです、またこうして一緒に飲めるなんて」  「それは俺もだよ。それにしてもこんな時間に誘っちゃってごめんね」  「時間は大丈夫です!私一人暮らししてるので1人だと寂しいぐらいですし...」  BARにて、春海と飲み始めて早1時間。春臣は疲弊した姿を少しでも隠そうと薄暗い角のテーブルで飲んでいた。こんな時間に2人で会うということを春海も意識したのか髪の毛にはウィッグがつけられており一見すると全く知らない女にも見えた。  「あれ、春海さんは今彼氏とかいないの?」    「え、いないですよ!彼氏なんてもうずっといないです!」  「へぇ、春海さん可愛いのにみんな見る目無いね」  「藤堂さん、そういうこと簡単に女の子に言っちゃダメですよ」  そう言い頬を赤らめる春海は気を紛らわせようとしているのか自身の酒を飲み干し、新しく酒を注文しようとした。  それを見て春臣は先程頼んだばかりの自身の酒も春海に勧める。  ― 俺はあんまり飲み過ぎるとベッドで頑張れないからね。  「春海さん、それ飲んだら場所変えようか」  「...はい」  ぐびり、と春臣の酒を飲む春海はさらに頬を赤くし俯いた。  

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