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第8話
「恐るべし、惚れ薬……」
景に渡された瓶をまじまじと見ながら、感心する。
茶色い瓶の中にはまだ少し液体が残っている。
という事は俺はほんの数量であんなに破廉恥な姿になってしまったということなのか。
「半信半疑だったけど、本物だったね」
景はダイニングテーブルで残ったガトーショコラを食べながら笑っていた。
俺はおでこに冷却シートを貼って、ソファベッドに寝そべっている。
泣きすぎ、声出しすぎ、イきすぎた結果、体は鉛のようにだる重く、ボロボロだ。
もう当分、エロい事は自粛だ。
「このケーキ、本当に美味しいよ。僕のためにわざわざありがとう」
「んー、美味しいなら良かった。絹豆腐使ってん、ヘルシーやで」
「へぇ。そういうこと、考えてくれてたんだ?」
「まぁ一応な。なのに結局……」
俺の体に塗りたくったチョコレートをほとんど綺麗に舐めとってしまった景。
よくあんな量のチョコを口にしたのに、今更ガトーショコラも食べられるよなぁ。
「そういえば、こうやってバレンタインのプレゼントをしてくれたのって初めてだね」
「ホワイトデー、期待してんで」
「分かった。また媚薬入りチョコでもいい?」
「そこはキルフェボンのタルトにしとき! ホンマ自分、今度またこっそり盛ったらどつくで!」
「……分かった。しょうがないね」
「目が笑ってんで! これは俺が預かっとくから! 絶対に入れたらアカンで!」
「もう、しつこいな、分かったよ」
景はグラスの中の液体を口の中に流し込み、俺のソファーに膝をかける。
ゆっくりと降りてくるその唇を受け止め、唇の隙間から流れ込んでくる生暖かい液体を喉を鳴らせて飲み込んだ。
喉が乾いていたので「もっと」とおねだりすると、景は何回かに分けてワインを口に流し込んでくれた。
……最後の一口を飲み込んでから、ハッと気付く。
「今のワインって、俺のやない?」
「うん、そうだけど……あっ」
景も目を丸くして今気付いたように振る舞っているけど、絶対にわざとだ。
俺はワナワナと体を震わせる。
「いややっ! もう無理や! もう体がもたへん!」
「大丈夫。効いてきちゃったら、またしてあげるから」
「無理無理! あぁーなんとしてでも体から抜かせるからな……!」
ガブガブと水を飲んではみたものの、二十分したらまた体に火がつき始めてしまった。
俺は薬が超絶効きやすい人なのかもしれない。
再び寝室に戻ることになり、景の愛撫は深夜まで続いた。
こんなに濃厚なバレンタインを彼と過ごしたこと、きっと一生忘れないと思う……。
☆end☆
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