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柊生は車に乗り込んですぐ バックの中からカプセルの薬を取り出し 一粒を口に入れ、ドリンクホルダーにあった ミネラルウォーターで流し込んだ。 それを横目で見ながら少年は、あえて軽い感じで 聞いてくる。 「あなたはαなんでしょ?」 隠す理由もない柊生は、そうだよ。と答えた。 「今飲んだ薬って…?」 「αの抑制剤だよ。もともと飲んでるけどね 君といるから、念のため」 柊生は不安にさせないよう、笑顔で語ったけれど 少年はピリッと緊張して ほんの少し 柊生から距離をとろうと座り直した。 警戒心を隠さない様子が逆に健全に見えて 柊生はホッとした。 αはΩの発情フェロモンに敏感だ。 発情期のΩのフェロモンを受けとると 衝動性が激しくなる。 理性的に物事を考えられなくなるのだ。 フェロモンに惑わされないように 多くのαは普段から抑制剤を服用していた。 「さてと、話をもどそうか。 君の話は分かったけど、さっきも言った通り 後々トラブルになったらと心配なんだよ」 柊生は できるだけ穏やかに話した。 「あなたに迷惑をかけるような事しませんよ」 「このまま君を帰して、後から容態が悪くなったら? その時同じ事が言えるかは分からないでしょ?」 そこまで話すと少年は、また ひとつ 大きなため息をついた。 半分あきらめた表情になって視線を自分のひざに 落とし、指先でデニムの膝のほつれを弄んでいる。 長めの癖のある前髪の隙間からは、あの瞳が見え隠れ していた。 頬にも擦り傷があることに気づいて、柊生はさらに 不安になる。 「頭打たなかった?」 「多分…メットもしてたし…平気です」 そう言うと、またクシュンとくしゃみをして すいません、とかるく頭を下げた。 寒い?と聞くと首をふる。 「風邪?」 「…かな?のども痛いかも…」 首をかしげ喉に手を当てて、小さく咳払いをしている。 「早く帰って休んだ方がいいね」 柊生は苦笑混じりにそう言った。 少年は、え?と期待がまじった顔で柊生を見る。 「免許証見せて」 その言葉に少年は一瞬表情を曇らせたものの すぐに肩から斜めにかけていた小さなバックから 免許を取り出して、素直に柊生に手渡す。 「ねぎし かずま…君ね」

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