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和真は寝室に逃げ込んですぐに、バックから薬を 探し出して、震える手で口に入れた。 昨晩からもう3錠も飲んでる。 こんなに立て続けに飲んだことなんてないから きっとまた副作用が出るだろうけど… こんな状況では気にしていられない。 体は勝手に刺激をもとめて疼き、集まった熱を 解放したくて、頭の中はドロドロの欲望で 溶けそうだ。 和真は居てもたってもいられず布団の中に潜り だんご虫のように丸くなって、嵐が過ぎ去るのを 待つ。 その時、部屋の外から天使の声が降ってきた。 「根岸くん、大丈夫?」 ー 今優しくしないで!放っておいてくれ! 今にも飛び出して、その胸にすがりつきそう なんだ!きっかけを作ってほしくないっ 「少しコンビニ行ってくるから、ゆっくり寝てて」 思いもよらないその言葉に、ほんの少し体の力が 抜けてゆく。 ー ここは佐倉さんの家なのに 気を使わせてしまった…。 そう思うと、その優しさに涙が出そうだった。 「今薬飲んだんで、少ししたら落ち着くと思います」 それだけ伝えると、了解、と優しい声が帰って来て ゆっくり足音が遠ざかっていく。 一緒に柊生がラットを起こしてた事に気づいてた 見つめ会った時に放たれてきた雄の匂い。 もう少しで、健全の塊のような人を強姦魔に してしまうところだった。 あの状況で耐えてくれた事には感謝しかない。 Ωの発情フェロモンに刺激されてαも発情期のような 状態に陥る。 Ωが疎まれ、差別される原因のひとつだ。 恋愛感情がある、好意をもった者同士だけに起きる 生理現象だったら良かったのに それとは関係なく起きるヒートとラット。 恋人を誘惑された 興味も無かったのに誘われて… あいつのせいで仕事に集中できない 何度も聞かされた。Ωに対する嫌悪感や蔑み…。 ー 佐倉さんも思っただろう。 面倒くさいヤツと関わってしまった、と これ以上迷惑かけて面倒なヤツなりたくない。 佐倉さんが戻ってきたら、ちゃんとお礼だけ言って 早く帰ろう。きっと もうすぐ薬も効いてくる。 そんなことを考えていたら強烈な眠気に襲われた。 きっと副作用だろう。 目を閉じると、一気に暗い海の底に引きずられ 落ちて行くような感覚がして、和真は布団の端を 両手でギュッと握った。

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