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第8話

 それは短い手紙だった。  呆気に思うほど短く、シンプルで淀みのない、誠実で真っ直ぐな言葉。 それらたったの三行は、俺にあの真っ赤な夕日を彷彿とさせ、身体を芯から暖かくさせた。  俺は顔を上げて、隣にいる鴻を見る。  彼もまた、手紙を読み終えると、顔を上げて俺を見た。視線が重なり合うと、彼はふ、と力を抜く様に笑い、 「付き合う前から、好き合ってたんだなあ」  そう言いながら俺が書いた手紙を差し出してきた。  鴻へ  小学生の頃から、鴻の事が好きだった。  でもきっと伝えられないから、大人になった時の、酒のつまみにでもして、俺を揶揄ってもらえたらと思う。  我ながら可愛くない手紙だと思う。  俺は自分の手紙を鴻に返し、彼からもらった手紙を綺麗に、折り目通りに畳み直すと、封筒の中に入れた。 「なあ」 「ん?」 「付き合ってた頃、よく行ってた駅前のカフェ覚えてるか?」  ぼんやりとした口調で、鴻が懐かしむような口調で言う。 「覚えてる。試験勉強良くしてた」 「そうそう」  彼は頷くと、少しの間を置いてからベンチの背に預けていた体を起こして、少し姿勢を正す。まるで何かを覚悟するかのような横顔に、少しだけどきりとする。高校生の頃とは違い、精悍な男の顔となった彼は、凛々しく以前よりも何処か意志が強そうな眼差しをするようになっていた。 彼は真っ直ぐと公園の外を見据えてから、あのさ、と俺に振り返り、 「今から行かね?」  と、寒さなのかそれとも別のものなのか、少し赤くなった頬と鼻先を隠すことなく、真剣な眼差しで俺を見つめながらそう言った。  凛々しい横顔と違い、少しだけ不安そうな子供じみた眼差しに、胸の奥を握り込まれるような錯覚に陥る。  切なさと甘い何かが、腹の底から湧いてきた。  俺は少し迷ってから、けれどしっかりと彼を見つめて、 「うん」 と、頷いた。 「久しぶりにコーヒー飲みに行こうか」  そう言うと、鴻の強張っていた表情が柔らかく笑顔に溶けていく。それが俺の胸にしみこんで、懐かしい甘い疼きを胸に蘇らせた。  もう戻れない過去を繰り返す事が出来ないように、今なら、昔描けなかった未来が胸の奥に見えた気がした。

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