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第1話
いつもと同じ時間に起きて、ちょうどいい時間に炊けるようにセットされたご飯を食べ、職場で食べる昼食用の弁当を準備する。
そして出勤する時間になりアパートを出る。
宿泊施設が何軒か隣接している一角がありそこを通ると会社への近道になる。
正直1分でも多く寝たいがために近道のここを通る。
何度か以前付き合っていた恋人と利用していたホテルもある。色々と気まずい気持ちになる、ということは全くないので気にせずにその通る。
「川端くん、今夜は俺とどう?」
「えぇ〜いいけどどういうのが好き?俺苦しいのは嫌いだけど、それ以外なら」
朝っぱらから下品な会話が聞こえただでさえ重い足が重くなる。
月曜日の朝に元気な事だ。と呆れはするが、声の方に目を向けると引き込まれた。二人の男に囲まれている男性、恐らく"川端くん"であろう。
若干伸びた髪、美人という部類にわけられる整った顔。
それで遊び人とは他人事ながら勿体ないな
と思ってしまった。
その日を境に彼とすれ違うことが多くなった。
いつも違う人が近くにいる。
しかも全員男だ。
俺も男相手にする事は何度かあったので、抵抗感はないが、どうも目について仕方がない。
初めて彼を見て2週間後の休日、俺は2日ある休みの半日を読書や資格勉強をするために図書館へ足を運んだ。
これは就職し始めてから5年間、勉強癖を忘れないためにやっている事だ。
最初の1年は挫折したが、活字を追うのはなんだかんだで楽しかったので読書と勉強をローテーションしているといった形だ。
ノートと筆記用具を持って図書館内へ入ると最近見かける姿があった。
何をしているのだろうと見入ってしまい、彼と目が合いハッとした。
「なにか探してる?このテキスト読みたかった?」
男が持っていた本は求人雑誌とパソコン系の資格テキストだった。
また見すぎていたのか男はクスッと笑い、髪を耳に掛けまた話し出した。
「よくすれ違うよね?」
仕草の一つ一つが色っぽいなど突拍子のないことを考えていたせいもあり、その発言に動揺し言葉が詰まった
「えっ、しって、俺の事……」
「ははっ、場所変えようか」
「そうですね」
「俺、川端って言います。」
「茅原です。あの、川端さんは最近引っ越してきたんですか?」
「ん〜まあそんなところかな。色々あってね。2週間前に」
2週間前、川端さんを見るようになったのもその頃だ。
なんと言うか、いつも朝方見る雰囲気と全然違う。
「急に話しかけてごめんね。よく見るな〜って思ってたから」
「いえ、俺も話してみたいと思ってました」
「もしかして、俺に興味ある?今暇?」
これは、ナンパされている……?
「暇じゃないです。資格勉強するので」
「なんだ〜じゃあ俺も戻って本読も」
気の所為だろうか、川端さんは少しほっとしていたような気がする。
夜と日中の雰囲気が違う人はよくいるだろう。
でも、なんだろ、違和感があるような気がする。
図書館に戻り何となく席を離れるのも不自然と思い向き合うように座った。
川端さんは先程手に持っていたテキストや求人雑誌を持たず、パラ読みしたりして手に取った小説を読んでいる。
朝、毎回違う男に身体を開いたあとであろう、お金を貰っている所をたまに見ることがあった。
でも今日、図書館で求人を見ていた。本当は普通に働きたいのか?
益々、彼は何をしたいのかが気になった。
もう少し話をしたいと思い、昼食に誘うも川端さんは「またの機会に」と断られた。
さっきは暇か?なんて聞いておいて不思議な人だ。そもそもまたなんてあるのだろうか。
俺はこれ以上誘い文句が出てこなかったので「ではまた」とだけ残してその場を立ち去った。
勉強は全く頭に入ってこなかった。
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