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第14話

「…先生…今のは…?」 中島は目を見開いて驚いていた。 毅の声が怒鳴っていたせいだろう。 電話の内容は何を言っているのか聞こえていないと思うが…… 「あっ、ああ知り合いだ。なんでもない。」 「あの先生、俺、先生に…!」 「ん?」 中島が言いかけた時にガラガラガラっと、突然部屋のドアが勢いよく開いた。 「失礼します。拓海!!探したんだぞ!」 「…井上…」 「今日、参考書を買いに行くの付き合ってくれって言っただろ!」 賑やかに入って来たのは井上(いのうえ) (かける)だ。 井上の選択科目は同じ美術だが中島とは同じクラスじゃない。 井上も女子に人気があり、校内では絶えず女の子が付いて回っている。 真面目で大人しい中島とは対照的で表情豊かで人懐っこそうな性格、くるくると良く表情を変える大きい瞳、明るい髪の色、身長は俺と同じぐらいの167センチだろう。 こうして二人並ぶとモデルかアイドルグループのようだ。 「何、ジロジロ見てるんですか。先生。」 井上に不機嫌そうに指摘されてから気がついたが、俺は無意識に二人をじっと見ていたらしい。 「ああ、すまん。こうして二人並ぶとアイドルみたいだなと思って見ていた。」 見とれていた理由をそのまま口にしたら井上の機嫌は更に悪くなった。 「先生、失礼だな。俺、芸能界デビューしるんだぞ!知らないの?!」 「すまん。最近テレビを見ていないんだ。」 「最近?俺、入学する前からデビューしてんだけど!」 「井上!先生になんて口のきき方するんだ!」  俺を怒鳴りつけて来た井上を中島が叱りつけた。 「俺は学校出口に出待ちされるほどのトップアイドルだぜ!!それを知らないってあり得るか???人のプライドを傷つける事を言う方が悪いんだろっ!」 井上はかなり怒っていて俺を視界に入れないように顔を横に向けている。 謝る気はないらしい。 「あっ、それより拓海、社長がウチの事務所に来てくれってさ。俺も他の事務所にお前をとられるなんてヤダよ。一緒に仕事やろうぜ。」 「やらない。」 「何んでだよ。」 「興味が無い。」 ピシャリと断って取りつく島もない。 「井上、中島に興味が無いなら言っても仕方ないだろ。でも俺も少し勿体無い気もするな。もし中島がデビューして二人でユニットを組んだら凄く人気が出そうだ。」 「! ………」 なぜかこの一言に井上の機嫌が良くなった。 代わりに中島が不機嫌そうだ。 「あ!先生もやっぱりそう思う?俺も拓海と一緒に仕事したいのに…凄く嫌がるんだぜ。先生もああ言ってるんだから、うちの事務所からデビューしろよ!」 「嫌だよ。なんでやりたくない仕事につかなくちゃいけないんだ。俺には俺のやりたい事が一杯あるんだ。」 「凄いな中島は、しっかりと自分の目標を持っているんだな。」 俺が高校生のときなんか、なんの目的もなく漠然と美大に進学して今の仕事についたもんな。 「あ、そうだ。中島さっき何か言いかけていただろう?なんだ?」 「…いえ、なんでもありません。また今度、聞きます。」 「そうか?」 井上の前では話しづらい話なのかな? 「なあ、拓海これからウチの事務所に話だけでも聞きに来いよ。」 「行かない……それよりお前、さっき参考書を買うって言ってなかったか?」 「あっ!そうだった!買い物!!買い物、行こうぜ拓海!」 渋々といった感じで中島は広げていた参考書とノートを鞄にしまうと井上に腕をホールドされてぐいぐいと引っ張られる。 「先生、失礼しました。」 「失礼しましたー♪」 賑やかな2人が退室した後は本当にここは静かになった。 誰も来ないことを確認してから毅に電話すると着信拒否されていた。 「どうしてこうかなぁ!着信拒否するほど怒る事かぁ?!」 思わず声に出してしまった。 ……1カ月ぶりに毅の声聞けたのに喧嘩するなんて……。 仲直りする為に今日毅の家に行くか? ………来るなって言ってる所に行ってどうする…? 前みたいに浮気現場に遭遇して、嫉妬と惨めな気持ちを抱えて口をつぐんて家に帰るのか? それとも今度もあの家でまた修羅場を…?… あんなみっともない事はもうしたくない………!!!…………。 もうっ!……こんなこと考えている自分が嫌だ! 毅は男にも女にも手を出す。 もう何度も浮気され過ぎて怒る気力もない。 俺は…俺達は…本当に付き合っているのかな? もしかしたら毅にとって俺は、いつでも抱ける都合の良い男だと思われているんじゃないのか? それに俺自身の気持ちも良く分からなくなって来た。 毅の事を本当に好きなのか それとも初めての男だからと執着してダラダラと付き合っているだけなのか この機会に距離を置いて自分自身の気持ちを見つめ直してみるのもいいかもしれない。 色々考えた末、冷却期間を置こうと決めて、毅の方から連絡が来るまで待つことにした。      

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