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第1話
パチリと目を覚まして、まず目に入ったのは知らない天井だった。何があったのか思い出そうとした時、横から呼ばれた。
「あ、大翔兄さん気づいた?」
「柊…二?」
声が聞こえた方を見るとそこには弟の柊二が居て、何をしたのか声をかける前に、あるのもが目に付いた。……手錠か?何でこんな物が俺に付いて…と考えながら足も動かしてみて分かったがどうやら足にも同じ物が付いているようだ。これでは身動き取れない……取り敢えずこれらを付けたであろう柊二に聞く。
「なんだこれ!?」
「ふふっ、兄さん怖がらなくていいよ。ずーっと僕だけを見てればいいからね」
ふふっ、と妖しく笑う弟を見てどうしてこんな事になったのかを思い出す。
♢♢♢
──数日前
仕事の帰り、ブーブーとスマホが震えてるのに気づき確認をするとメールが届いていて確認をすると久しぶりに見る名前だった。
(柊二?珍しいなアイツから連絡が来るのは)
「大翔兄さん、柊二だよ。兄さんは元気にしてた?俺は元気だよ。久しぶりに兄さんに会いたくて連絡したんだけど、何時なら会えるかな?」
(今度の土日ならどっちでも会えるぞ…っと)
と返信すると、直ぐに返信が届いた。返信の早さに少し驚いたが内容を読むと笑みが零れる。
「本当に!?嬉しいなぁー♪それじゃ、土曜日の10時に○○駅前に来て貰っていいかな?」
土曜日
俺は時間より少し早く来てしまった。久しぶりに会うのでおかしな所が無いか確認する。
(柊二に会うのは何時ぶりだろうか…最近は連絡すらしていなかったからな)
そろそろ10時だなと思い、時計を見ていると…
「大翔兄さんー」
俺の名前を呼びながらカバッと飛びついてハグしてきたのは紛れもない俺の弟だった。ちっとも変わってない…いや、少し背が伸びたか?でも元気そうで安心した。
「柊二…!」
「えへへ、久しぶりの兄さんだ!」
「う、嬉しいのは分かるが人目が……」
駅前だと言うのもあり、俺たちのことを見てる人が多かった。……めっちゃ視線が痛い。
「あ!ごめんね。兄さんに会えたのが嬉しくてつい」
「俺も柊二に会えて嬉しいよ」
「えへへ。あ、場所移動しようか!近くにいいカフェがあるんだ!ゆっくり話もしたいし…」
「そうだな。案内してくれ」
俺たちは柊二の行きつけというカフェへ移動した。そこはレトロな雰囲気で初めて来たのに安心する。席につくと、柊二が「ここのオススメはカフェラテなんだ」と言われると気になるのでカフェラテ2つとそれぞれケーキを頼んだ。
そして、改めて店内を見て確かに柊二が行きつけになるのも分かると頷く。
「へぇー、確かにいい所だな」
「でしょ!休みの日によく通ってるんだ」
「そうか。仕事はどうだ?」
「うん。何とかやってるよ。一人暮らしも慣れてきたしね。兄さんは?」
「ん?俺もそこそこだな」
とここで頼んだラテとケーキが運ばれて来た。俺はショートケーキを柊二はチョコケーキを頼んだ。まずはコーヒーをと1口飲んだ時、柊二がある質問をしてきた。
「ふぅん…ねぇ彼女とか居るの?」
ブッ…と少し吹き出しそうになったがそれは免れたが、変な所にコーヒーが入ったのか咳が止まらない。柊二は心配そうにこっちを見てる。
「兄さん大丈夫?」
「ゴホッ…大丈夫だ。今は彼女居ないよ」
「今は…ねぇー。それじゃ前は居たんだね。振ったの?振られたの?」
「……振られた」
数ヶ月前は付き合っている人が居たが、仕事が忙しく中々会えないでいると向こうから別れを告げられた。確かに俺も悪かったのでそれを受け入れた。それを聞いた柊二は聞いた事が無い低い声で
「兄さんを振るんだなんてその女見る目が無いなぁー」
「え……?」
「ううん、何でもないよ」
俺が驚いているとまた何時もの明るい声に戻ったので、何事も無いようにまた世間話をしてカフェを出た。このまま別れようと思ったら柊二が
「兄さん、俺の家近くなんだけど遊びに来ない?明日も休みでしょ?何なら泊まって行ってよ!」
「え、でも…お前はいいのか?」
「勿論だよ!寧ろ泊まって欲しいな。ほら、久しぶりに会えたんだし」
俺は少し悩んだが、確かに柊二の言う通り久しぶりに会えたし、もしかしたらまた疎遠になったらと思うと…
「分かった。それじゃ、久しぶりにお前に飯作ってやる。何がいい?」
「兄さんのご飯嬉しいなぁー。でも悩むなー」
「ゆっくりでいいぞ」
それからスーパーに行く道中に柊二が、「唐揚げが食べたい!」とリクエストが来たので鳥の唐揚げに決り、スーパーで材料などを買い、柊二が住んでるマンションへと向かう。
2LDKで防音らしく、俺よりいい所に住んでいた。部屋も特に汚いとかも無くシックな感じでまとめられていた。
「へー結構いい所に住んでるんだな」
「まぁね。これもこの日の為に……ね」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何でもないよ!あ、キッチンはここだよ」
「ん、少し借りるな」
「ね、俺も手伝っていい?」
「ああ」
2人でご飯を作り一緒に食べるなんて何時ぶりだろうか…俺が高校を卒業する直前に両親が亡くなり、柊二はまだ中学生だった。
それから俺は、就職して柊二と2人で生活していた。俺の帰りが遅くなっても柊二は文句一つも言わず帰りを待っていてくれた。ご飯もなるべく一緒に食べる様にしていた。柊二の就職が決まって家を出るまでは…だからそれ以来だろうかこうして食事をするのは…と心が暖かくなった。
食事が済むと「片付けは俺がするから兄さんはお風呂に行ってきなよ」と言われたのでお言葉に甘えてお風呂を借りた。その間に柊二が仕組んでるとは知らずに……
着替えを借り風呂から上がり、リビングに戻ると柊二が
「はい、兄さんお水」
「わざわざありがとな、柊二」
渡されたコップを受け取り一気に飲み干す。ふぅ…とため息をついたその時、視界が周り急に眠気が襲ってきたのだった。
「……っ?何だこれ…」
意識を失う前、最後に聞こえたのは
「大丈夫だからね、兄さん……」
(何の…事だ?)
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