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君を向かえに行くために〈語り・博孝〉

椿紗から別れを 告げられた日から 二ヶ月は経っていた。 言われて初めて気付いた。 椿紗と凌央を 重ねて見ていたことに…… よくよく思い返せば 僕達は体を重ねたことがない。 そう、キスから先を したことがなかった。 そのことに対して 椿紗から不満や疑問を 持ち掛けられたことはなかった。 大分前から気付いていたんだろう…… 僕が凌央と重ねて 見ていたことに…… だから、キスから先に関しても 何も言えずにいたに違いない。 そりゃ、シてる最中に 別の名前を呼ばれたら 耐えられない。 僕が逆の立場だったら 立ち直れない。 そうなることを危惧していたから 体を重ねないことについて 敢えて、 話題に出さなかったんだろう。 僕の今の感情はごちゃ混ぜだ。 凌央と重ねていたということに 気付いていなかったことと 無意識とはいえ椿紗自身を 見ていなかったという困惑と後悔。 自業自得だが隣に 誰もいない寂しさ。 椿紗、ごめんね…… 今、此処にいない椿紗に 心の中で謝った。 僕は凌央のお墓に向かっていた。 けじめをつけるために。 椿紗自身を愛するために。 『凌央、久しぶりだね』 誰もいない墓地で 凌央のお墓に話しかける。 目を瞑り、 あの頃のことを思い出していた。 凌央と僕は幼なじみで恋人同士だった。 七年前、あの事故が起きるまでは…… あの日、あの時間に あの場所に行かなければ 運命は違っていたのだろうか……? 椿紗とは友人関係だったんだろうか? そんな栓ないことを いくら考えたところで 現状が変わる訳じゃないと思い、 目を開けて、もう一度 凌央に話しかける。 『ねぇ凌央、 僕ね、好きな人ができたんだよ』 椿紗は凌央にそっくりだった。 確かに、第一印象は “凌央に似てる”だった。 告白は僕から。 この時点で“椿紗自身”を 見ていなかったことに なるのかも知れない。 そう考えると 僕は相当酷い奴だよな。 『だけどね、 彼自身を見ていなかったって 言われてしましたんだ……』 椿紗が何時、 “自分自身”を見ていないと 気付いたのかはわからないけど 心の中は穏やかじゃなかったはすだ。 『でも、一つ一つ 思い返していくと 考え方とか中身は やっぱり違うってわかるんだ。 僕はもう一度、彼と 今度は本当の恋人になりたいんだ…… だから、凌央、バイバイ』 笑って思い出にできるように だけど、忘れたりしないよ。 椿紗…… 今度はちゃんと“君自身“を 愛するから、僕ともう一度 付き合ってほしい。 そう思いながら墓地を出た。

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