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ジッと見詰められて居心地が悪い。
俺が九条君にゲイだって事を打ち明けなかっただけで、なんでこんなに怒るのか分からなかった。
「最悪……だから言っただろ。 もっと危機感持てよ…」
「く、九条君…っ?」
「昨日来なかったのはアイツと寝てたからって事だよな」
「あ…! うっ…! …そ、そうです……」
「最悪………」
そうか……約束すっぽかしてセックスしてたなんてどういうつもりなんだって意味で怒ってんのか…。
そりゃそうだよな。
俺が同じ立場だったらやっぱムッとするよ。
約束してるのに何の連絡も無いまま、後から「エッチしてたから行けなかった〜」なんて言われたらその友達とは絶交もんだ。
うう〜ごめん、九条君……最悪だよね、俺…。
「二人でコソコソ何を話してるんですか。 そこのあなた、僕が七海さんを看病するのでお引き取り頂いて結構です」
勝手に部屋に上がり込んで俺の腕を取った和彦は、強過ぎるメンタルで九条君に向き直る。
ただし九条君も負けてない。
同じくらいの背丈の二人は睨み合っていて、間に挟まれた俺はどうしていいか分からなかった。
「お前が帰れよ」
「なんで僕が。 帰りません」
「俺も帰らねぇよ」
「仕方ないですね。 二人で看病するなんて納得いきませんが、…仕方ない」
俺の頭上で言い合いをするな!
こんなに怒った顔してる九条君を初めて見るけど、これは俺のせいだと分かる。
でも和彦のは違うだろ、帰れって何回も言ってるのに…!
忘れようにも忘れられない、俺の大事な初めてを奪いやがったんだから、顔も見たくないって台詞は合ってるはずだ!
「仕方なくない!! もう顔も見たくないって言っただろ! お願いだから帰って!」
「そんな……っ、七海さん!」
「い、痛い、痛いって…っ」
ショックなのは分かったから力を緩めろよっ。
どう考えても、自分が犯した罪を認めないでずっとここに居座ってる方が悪い。
なんで分かってくんないんだよ。
いきなり初対面の男から、ほんとに大事に大事にしてきた初めてを奪われた事がどんなに悔しくて悲しかったか、ノンケの和彦に分かるわけないと思うけど少しは分かってほしい!
九条君も九条君だ、そんなに和彦睨むくらいキレてんなら俺に直接怒ってよっ。
すっぽかしてごめんって謝るから!
……俺はすごく嫌だった。
何だか分からない、どんよりとした空気がこの俺の部屋に流れてる事が──。
「帰れってよ」
「嫌です。 僕が帰ったらあなた七海さんを抱いちゃうでしょ。 そんな目をしてる」
「……かもな」
「それが分かってるのに帰るわけないです。 僕は決めました。 七海さんを僕だけのものにする」
「その七海からめちゃくちゃ嫌われてんだろ。 ……無理だな」
「これから好きになってもらうんです。 ヤンチャな七海さんは一筋縄ではいかないかもしれないけど…七海さんは可愛いからしょうがないですよ」
「七海が可愛いのは認めるけど、お前腹黒そうだから渡せねぇな」
「やだなぁ、褒めないでください」
「褒めてねぇよ」
ギッと睨み合う二人は、言い合うごとに俺の腕を掴む力を強めてくる。
体格差を考えてほしい。
これ以上そんなにギリギリ掴まれてたら、俺の貧弱な腕がポキっといっちゃうって。
「や、やめろよもう……何の話してんだよ…。 ぅぅ…っ、頭痛い……」
両サイドからの圧と握られた両腕、さらに狭い部屋中に立ち込める重たい空気で俺の頭痛がもはや薬の効力を跳ね除けた。
そろそろ効いてきてもいい頃なのに、頭痛は増すばかり。
こんな事になってなきゃ、偏頭痛持ちな俺は空を見上げて「明日は雨かな?」って呑気に思えたのに。
「大丈夫ですか!? …ねぇ七海さん、昨日の事ちゃんと謝りたい。 僕の気持ちも伝えたい…だから…帰れなんて言わないで…」
俯く俺を覗き込んでくる優しげな顔。
すごく綺麗に、すべてのパーツが寸分の狂い無く配置されたモデルさんみたいに美しい顔面だ。
声もとびっきりのイケボ。
何も知らなかった昨日は、この声で不意打ちに耳元で囁かれてドキッとしたっけ…。
けどな、俺は忘れない。
和彦……あんたは俺を襲った狼だ。
優しそうな兎と見せかけて、とんでもない狼が内に潜んでるって、もう知ってるんだから。
絶対許さないんだから。
「……あ………俺やばい。 ……二人とも、もう勝手にして…」
覗き込んでくる和彦の綺麗な顔がぐにゃぐにゃと歪んでいた。
遅れて視界に入ってきた九条君の姿も、ぐにゃぐにゃ。
頭痛ってものを甘く見ちゃいけない。
人は痛みの限界がくると気を失って、痛み、苦しみから逃れようとする生き物なんだよ。
───ん? じゃあ何で……俺は昨日、犯されてる最中に目を覚ましたんだ。
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