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強制同居

 険しい顔で戻ってきた和彦は、彼には不似合いなコンビニのビニール袋を両手に持っていた。  頭がボーッとして立ち上がれる気がしなかったから、仕方なく乾いたタオルで汗を拭っていたところに目が合って、急いでTシャツを着る。  怖いよ、あの目…。  憎たらしいくらい綺麗な顔してるから余計に、真顔だと冷たい印象になって怖い。 「七海さん……」 「な、なんだよ。 そんな顔するなら何で買い物行ったんだよ。 そのまま帰って良かったのに」 「この家引き払いましょう」 「はっ!?」  帰ってきて早々、何を言い出すんだ。  今までのいくつかの会話と、俺に何を言われてもへこたれない強心臓で、和彦が究極に変な奴なのは分かったから。  いい加減、藪から棒発言で俺を驚かすのはやめてほしい。 「何言ってんだよ、マジで意味分かんない。 俺、和彦の事嫌いって言っただろ。 帰れって言っても帰んないから仕方なく会話してるだけなんだからな」  看病をしてくれた事はほんとにありがたいと思うけど、許せないものは許せないんだからしょうがないよね。  何をどう言っても和彦が帰らないなら、好きにさせておくしかないんだもん。  体が熱くて全身がだるいし、正直こんな状態だから会話もしたくない。  要らないって言ったのに口移しでゼリー食べさせられたし…。  昨日から何回和彦とキスしたか分からない。  もう、ファーストキスに拘れなくなった。  それだけでもイライラするのに、初めてのセックスもいつの間にか奪われて、さっきなんて「僕の魂授けるから責任取れ」とか言い出してたんだからな。  そんな和彦は自分が変だって自覚してる。  それもまた妙な話で、だから俺が「おかしい」って言うのは当たり前だろ。  しかも何、魂授けるって。 怖いったらない。 「あ、後藤さん? 申し訳ないんだけど、さっきの家まで迎えに来てくれない? ……うん、そう、……」  俺のぼやきは無視して、和彦は誰かと電話し始めた。  迎えを頼んでるみたいだから、やっと帰ってくれるんだと思うとホッとして、俺はベッドに横になってスマホをいじった。  そういえば九条君、俺にムカついたまま帰っちゃったのかなぁ。  謝りたかったんだけど。  俺の記憶は、九条君と和彦がよく分からない言い合いを始めてゲンナリしてたとこまでだ。  事切れたように俺は気を失って、ひたすら寝てたところを和彦が看病してくれた…って流れか。  もう夜の十時過ぎだ。  今さら九条君に連絡しても悪いし、明日直接面と向かって謝ろう。  今日の和彦の失礼な態度と、昨日のドタキャンと、俺が九条君にゲイだって打ち明けてなかった事…。 「七海さん、あと十分ほどで迎えが到着しますからね」 「あ、そ。 バイバイ」  電話を終えた和彦が、少しだけ微笑みながらポカリ片手にベッド脇までやって来た。  いいよ、いちいちそんな事言わなくても。  俺が寝てる隙に勝手に帰っててもらって全然構わない。  ………あ、そうか。 和彦が帰った後、鍵閉めろって事か。 「バイバイじゃないですよ。 七海さんも一緒に来るんです」  微笑みを絶やさない和彦が、何故か俺にそれを寄越さずポカリに口を付けようとしている。 「えっ!? なんで? 嫌だ!」 「ここに住んでて、今まで何も起きていないんですか? 危険な目に遭ったりとか…」 「ない、ないよ! どういう意味っ?」  あーもう、その突拍子もない発言をやめてほしいんだってば。  訳が分からないまま和彦を目で追うと、片膝をベッドに付いて最接近してきた。 「今までが幸運だっただけですね。 ……よいしょっと」  待って待って待って待って…!!  ポカリを口に含んだ和彦の顔が、どんどん近付いてくる。 「ちょ、なんで………んんっ…!」  ヤバイ、絶対キスされる、と焦り始めた時には遅かった。  僅かに背中を起こされて後頭部を支えられ、押し付けられた和彦の唇から俺の口の中にポカリが流れ込んでくる。  さっきのゼリーの時みたく、離れてくれたと思ったらまた唇を押し当てられ、無理やり二口もポカリを飲まされた。 「んっ………んっ…!」 「ゴックンね、ゴックン」  うるさい…!  言わなくてもゴックンしてる!  逃げられないようにされて、かつ口から溢れさせるわけにはいかないから溺れそうになりながらもゴックンしたよ! 「可愛い…。 キスは慣れてないの?」 「…っ? 慣れてない! てか何すんだよ! 今みたいなのやめてよ!」 「そう…慣れてないんだ……。 毎日してたらきっと慣れますから、心配しないで下さいね」 「─────!?」  また、和彦がおかしな発言をし始めた。  毎日してたら…? それって和彦とって事?  ………冗談じゃない!  なんでこいつは俺が「嫌い」って言ってるのを真に受けてくれないんだ! 「あ…お迎え来ましたね。 七海さん、行きましょう」 「えっ、えっ? 嫌だ、どこ行くんだよ、俺起きたくない、きついんだよ…!」 「お姫様抱っこ、してあげます。 普通の抱っことどっちがいいですか?」 「二択がおかしい! いいから寝かせてよ頼むか……っ、ゴホッ、ゴホッ…っ」  なんで、?  こんな時間からどこに行くっていうんだよ。  勝手に帰ってよ、ほんとに体が言うこときかないんだって。  嫌いって散々言ってんだから、もう俺の事はほっといてよ………。

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