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第10話

   「言っている意味がわからないんだけど」  人気の少ない空き教室。そこにいるのは、今にもキレてしまいそうになっている俺と、クスクスと笑っている恵 叶江の姿。  「だから...」  「いや、そのことはわかる。要するに宵人に優しく接してやれってことだろ?」  「わかってんならーーーー」    「なんでそんなこと俺が命令されなきゃなんないわけ。いいでしょ別に、宵人がいいって言ってるんならお前がでしゃばらなくても」  「いいわけねぇだろ!!宵人は俺の大切な家族の一人なんだ!それを黙って見過ごすことなんてしない。宵人が嫌がらなければすぐにでもお前を殴ってやりたいぐらいだ 」  苛立ちが募り、拳を握りしめる力が強くなっていく。  嫌なくらいに整っているその顔を血反吐が出るまで殴ってしまいたい。  「はははっ、まぁお前からしたらそうだよな。ーー別に俺はお前の言うことを聞くのが嫌というわけではない。...その望みを聞いてやってもいい。ただ、条件がある」  「...条件だと?」  「ぁぁ、条件。...それはお前が俺の犬になること」  「...は?」  条件は何かしらあるだろうと予測していた。しかし実際に言われたその言葉に、俺は詰まってしまった。  犬?俺がこいつの?...こいつなんかの?下になるということか、  「別に呑まなくてもいい。それによって困るのは俺じゃなくてお前たちなんだから。さぁ、どうする。今、答えろよ」    「...っ」  こんな奴の犬なんかになりたくない。  そんなの願い下げだ。    だけど、だけど俺がこの条件を呑めば宵人はまた笑ってくれるようになる...?幸せそうに...。  「早く答えろ」    「...っ」  「...交渉不成立か。それがお前の答えか。ふっ、そうか...じゃあ、俺はまた殴って可愛がってあげるよ。愛しの宵人をな」  「...っ、ま、待ってくれ!!」  俺を残して去ろうとする奴の背中を睨むように見て、呼びとめる。  絶対にいいたくない。こんなこと、  奴の言葉で後押しされた俺のこの考え...だけどやはり心の底では未だにその考えを拒否してしまい、中々そこから言葉を発することができない。  「...に、なる...」  「え?聞こえないよ」  「...っ、お前の犬になるって言ってんだよっ」  でもそれ以上に、宵人に幸せになってほしいという感情が俺の中を走り回るんだ。  「交渉成立だな」  悔しそうに睨む俺を見て、奴はひどく愉快そうに笑う。 その目は俺を人として見てない冷酷なものだった。  「約束だ、さっき言った通り宵人にはーー」  「わかってるよ、何度も言われなくてもな」  そして奴はゆっくりと俺の方へと歩み寄ってくる。  手が伸びてきたかと思えば強く前髪を掴み上げられる。  「...う゛っ」  「今日からお前は俺の犬だ、」  「...クソ野郎っ...ぐっ、ぅ...」  瞬間、殴られその勢いで掴まれていた前髪から手が離れた。  鈍い痛みが広がり、キッと目の前の男を睨みあげる。  「ははははっ、生意気な奴。俺はクソ野郎じゃない。ちゃんとした名前がある。...そうだな、とりあえず俺のことは叶江って呼んでくれればいいかな。恵なんて名前、大嫌いなんだ」  二コリ、と好青年のような笑みを向ける目の前の男。  その表情に、無性に苛立ちを感じ舌打ちをする。  ーーそして、再び殴られた。  次は衝撃を受け止めきれず床に尻もちをつく。  「おいおい、犬のくせに飼い主の俺に舌打ちか。俺が笑顔向けてやったんだ、尻尾振って喜ぶくらいしたらどうだ」  「...っ」  腹に響く痛み、頬も痛む。  しかし今の俺にはそれらの痛みよりも奴への憎しみが勝った。

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