20 / 140

第20話

 「えっ...宵人が病院に...っ!?」  “宵人が頭を打って病院に運ばれた”その事実は、俺の視界を暗転させるには十分の知らせだった。  いつもと何ら変わらないある日の夕方。無機質な携帯の着信音が鳴り響いたことによってすべては始まった。  知らせを受けた俺はすぐさま家を出て、指定された病院へとタクシーで向かった。  宵人が病院に運ばれた、と思うともう気が気じゃなかった。  「大丈夫か宵人...っ。お前頭打ったって...」  病院に付き中へ入れば、待合室にいる宵人の姿を発見し急いで駆け寄る。  頭に包帯を巻いた宵人の後姿。しかしそれでもここにいるということは大事には至らなかったのだろう。  そのことがわかり俺は先程よりも僅かだが安堵した。  ―― しかし、  「愛都...?あっ、ごめんね、迎えに来てくれたんだ。心配かけちゃったね」  「...っ!」  俺の声に気がついた宵人はゆっくりと俺の方へと顔を向けた。  「なんだよ...その傷...っ」  振り返った宵人の顔は最後に俺が見た宵人の顔とは全く違っていた。  殴られたか、青くなった痣が片目の下にあり頬は擦り切れ痛々しく腫れ、口元は切れていたのかガーゼがあてられていた。  明らかに暴力をふるわれた様子の宵人は、そんなこと気にしていないという素振りで俺に微笑みを向ける。  そんな宵人を見て俺の中に何とも言えない悲しい感情が溢れだした。  「あー、ちょっとした喧嘩。でも大丈夫、これぐらい平気だから」  無理矢理あげる口元は痛々しく、話すたびに引きつったよな顔で痛みに耐える姿はひどく辛そうだった。  「...喧嘩、だって...?嘘をつくな!その傷は――」  「愛都!...一端落ち着いて。ここ病院内だから話は外に出てからにしよう?」  「...っ」  今すぐにでも問い詰めてやりたかったが、宵人にそう言われ仕方無く俺は言われるまま宵人とともに病院を後にする。  病院内を出る数十秒の短い間。それが俺にはやけに長く感じた。

ともだちにシェアしよう!