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第110話
放課後、綾西の部屋にて。愛都は綾西の足の間に入り、ソファに座っていた。
綾西は愛都の首や肩口に顔を埋めては匂いを嗅いではしつこくそこにキスをしてきていた。
強く強請られ、しかたがなくこんな体勢になってやったが、何とも煩わしい。
しかしこいつの行動一つ一つに注意をしていたらきりがないため、それらを無視して意識を別の方へと向けた。
― そろそろ見学旅行の季節か...
帰りのHRで担任がそんなことを言っていたな、と思い出す。
同じクラスの男子生徒達は和気藹々と騒いでいたが、愛都からすれば面倒臭いことこの上ない。
一体、何を楽しめと言うんだ。海外に行くと言っていたが、俺自身まずそのことが気に食わなかった。
国内ならまだしも、国外になってしまえば必然的に旅行も長くなる。
ただでさえ、時間が無いのにこんなくだらない行事ごとで時間を潰されてしまうのだ。
だが、確かこの学校はそういった行事ごとは大体が強制的に参加させられていた。
家柄など身分は関係なく、だ。
―あぁ、嫌だ。気に食わない。
唯一ここに来て、学校のことで不便だと思ったのはこういった行事ごとだった。
きっと叶江に言ったって、あいつは面白がって俺の不参加を認めたりはしないだろう。
そんな嫌な考えが頭を廻る。
「何、考えてんの」
「さぁ、なんだろうな」
「俺以外のこと?」
「当たり前だろ」
白い天井を眺めながらそう答えれば、綾西はムッとしたのか強くうなじに吸いついてきた。
まるで、構ってとでも言っているかのようなその行動さえも無視して、愛都は天井を見続け思考を戻す。
すると急に綾西は愛都のそばから離れ、ソファを降りる。
目の前まで来るとしゃがみ込み、ガチャガチャと愛都のベルトに手を掛けてきた。
そうして下着の中へと手を入れてこようとした時、愛都は舌打ちをしてその手を掴んだ。
必然的に意識は綾西に奪われ、俺は不快気に眉間にしわを寄せた。
対する綾西は愛都の注意を引きつけたことがよっぽど嬉しかったのか、目を細め口角を上げて笑んでいた。
「調子に乗るな、」
「ぅぐっ...」
苛立ちのまま綾西の肩を蹴れば、上がる呻き声。
「愛都、愛都....俺のこと、見てくれてる...」
だが、綾西の顔から笑みが消えることはなかった。
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