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第1話
手に汗をかく。
心臓が、ドキドキと鳴る。
「じゃあ、ホントに先に帰ってもいいのか?」
生徒会長の声も、ふわふわと浮いて聞こえる。
「ああ。俺はこの議事録を清書してから帰るよ」
高校3年生、生徒会副会長の斎藤 尊(さいとう たける)は笑顔でそう言った。
(早く帰れよ、馬鹿)
笑顔の下には、そんな本心があった。
二言三言、言葉を交わし、ようやく生徒会長は部屋から出て行った。
今、夕暮れの生徒会室にいるのは、尊ひとり。
この時を、どんなに待ったことか。
尊は震える手で、床に置いていたバッグに触れた。
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