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『警察官×ハムスター』
巷で流行しているイベントを "いいな" と思い始めたのは、潤と出会ってからだ。
まだ彼とは出会って間もなかったが、昨年のクリスマスは、イルミネーションも美しくデコレーションされたクリスマスツリーも浮かれた町並みも、すべてがキラキラして見えた。
行き交うカップル達に "羨ましい" という感情が芽生えていたのは、あの時すでに天が潤に恋をしていたから。
性別なんて関係ない、二人の間で性別は重要ではない。
そんな事を枕詞にしつつお互いの中ではひっそりと、数々の番のしるしを受け止めて見て見ぬフリをしている。
普通に恋がしたい。
恋をしてみたい。
運命と性別に縛られない、 "恋愛" をしよう。
初々しい二人は、最初で最後の、最高な初恋を成就させている最中だ。
… … …
「じゃあ、せーので見せ合いっこね」
紙袋を背中に隠し、天と向かい合った潤がニコッと微笑む。
受験生である潤は新学期から始まってからというもの外泊を許されず、天が通い妻となって週に一度は逢瀬を重ねること約八ヶ月。
この日は、ハロウィンだった。
天と潤は互いに着てほしい衣装を持ち寄り、気恥ずかしいコスプレと山盛りのお菓子で、異国の民間行事を世間と共に盛り上げようとしている。
天はもちろん潤も仮装するのは初めてらしく、綺麗に整った顔はいつも以上に朗らかだ。
「うん。 あ、ちょっと待って!」
「どうしたの?」
「い、いや何でも……。 よし、オッケー! いつでもいいよ」
潤に背中を向けて自身の紙袋の中身をチェックした天もまた、照れくささと期待感で唇が緩みっぱなしである。
二人は同時に紙袋を床に置き、衣装を手に取る。
「せーのっ」
「せーのっ」
掛け声と同時に、ジャーンとばかりにそれぞれの衣装をお披露目した。
潤は、天が手にした衣装を見てフフッと笑い、……天はというと……。
「……え、ちょっと潤くん……何それ」
「ふっふっふっ、可愛いでしょ、これ」
「着ぐるみ……しかもハムスター?」
そう。 潤が手にしていたのは、小さな子がそれを着てはしゃぐような、フードに可愛らしいハムスターの顔が刺繍された着ぐるみパジャマであった。
戸惑う天をよそに、美しい微笑みを絶やさないαらしくない潤が甘い声で大きく頷く。
「うん! それネットでもなかなか見つかんなくてね、僕自分で作ったんだよ。 探すより早かった」
「えぇ!? こ、これを潤くんが!?」
「そう。 αは何でも出来ちゃうからすごいね」
「そんな他人事みたいに……」
なんと、着心地の良さそうなこのハムスターは、潤の手作りだという。
しかしなぜハムスターなのか。
天は得意のネット検索で様々調べていた。
ちょっとエッチなものだったらどうしよう、天が持ち寄ったそれと被ったらどうしよう、……良いのか悪いのか、その "どうしよう" は杞憂に終わった。
「でも潤くん……ハロウィンだよ? ハロウィンなんだよ?」
「うん、そうだね。 ねぇねぇ、天くん、早く着替えて~♡」
天は、ニコニコで尻尾を振る潤からハムスターを受け取った。
週末潤宅に来ると、毎回朝まで激しく抱かれる。 うなじを守るΩ専用の首輪もここに置いたままで、潤は天の目の前で消耗品であるコンドームをまとめ買いしていた。
今日もそのままの流れで、お互いキュンとなるコスプレ姿で一風変わったセックスをする事になるかもしれない……というドキドキは、今この瞬間天の中でゼロになった。
「僕の方は……警察官だよね、これ。 無難だね♡」
「無難とか言うなよっ」
「天くん、僕にこれ着てほしかったの?」
天から警官服を受け取った潤は、自らの体に衣装をあてがいながらふわりと微笑んだ。
まだ着用する前にも関わらず、それに似せた帽子を被った潤を直視出来なかった。
すでに凄まじく似合っている。
「……うん。 初めて出会った日に一緒に交番行ったの覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ」
「あのとき警官の人見て、ちょっといいなって思ってたから……」
「──え?」
「ん? 何?」
「あのとき警官二人居たけど、どっちが天くんのタイプだったの?」
「えぇ? あ、いや、違うよ! そういう意味の「いいな」じゃな……!」
「あーいや、待って。 事情聴取は着替えてからにしよう。 許せない案件だよ、これは」
「…………!!」
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