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気のせい

 オレには友達が居ない。家族との関わりも希薄で、いつも1人。  小さい頃から、オレの見た目故か、話しても面白みのない人間性故か、友達と言うほどまで関わりができる相手は一切いなかった。 ――だけれどそんなオレが、つい先日この閉鎖的な男子校の同級に告られた。  相手は良い奴そうで、クラスでもニコニコと元気に話しているのをよく見る相手だ。  だが話したことなんてほとんどないし、好きな相手でもない。当然断ろうとしたが、そこをなんとか、お試しでいいから、だなんてしつこく食い下がられ断ることができなかった。  思いの外彼は強引なやつだった。  結果、友達をすっ飛ばして恋人になったオレたち。  告られた次の日から積極的に話しかけられるようになり、少し詰まりつつもぎこちなく言葉を返す。愛想笑いなのか、本当に面白いと思っているのか、彼はよく笑ってくれた。  しばらく接していると彼に慣れ、時々目で追うようになっていた。ニコニコと笑顔を振りまく彼は、オレとは全然違って人気者だ。周りは彼がオレと付き合っていることを知っているはずだが、一切話題には上がってないように思える。  クラスの人気者の彼が友達が一人もいないようなつまらない人間と付き合ったのに何故だろう、といつも疑問に思っていた。 ――ある日の放課後。たまたま教師に呼び出され、荷物をとる為に遅い教室に入る。いや、入ろうとした。  中から聞こえたのは話し声。彼と、彼の友達の声だ。  ちらりと引き戸のガラスから見えた彼は、いつもと同じ笑顔を浮かべているように思える。だが、話の内容はオレの疑問を吹き飛ばすものだった。 『お前、いつまで付き合ってんの?』  ゲラゲラと笑いながら、彼の友達が言った。オレも聞きたかったことだ。ドアの陰に隠れて話を盗み聞く。 『んー、』 『やっぱ相手が体で誘ってきたら、だろ!』 『あの木偶がんな事すんのかぁ?』 『......どうだろうね』  彼の声音は一切変わらない。答えも、のらりくらりとしたものでハッキリと言わない。けれど、友人の言い方からしてオレに告白したのはよくある罰ゲームのようなものであってるんじゃないだろうか。  そう自分の中で結論を出すと、酷く胸が痛んだ。  その痛みに気づき、違う、と頭を振る。 ――別にこれは、絆されている訳じゃない。 ――ただ、初めてこんなに話す相手が出来たから、いつかまた一人になるのかと思うとショックなだけだ。  盗み聞きを止め、至って普通の顔で荷物を回収するために引戸を開ける。中にいた彼らは驚いたような顔をしていたけれど、それは気にせず荷物を回収しに一直線に机に向かった。  その途中、小さくオレを呼んだ彼の声に振り返る。  やっぱり、彼はいつもと同じ笑顔を浮かべていた。  そのまま『好きだよ』なんて曰う。まるで、さっきの話を誤魔化そうとするかの様に。オレが話を聞いていたことに気付いているのかどうかなんて分からないが、オレにはそうだとしか思えなかった。  捨てられ続けたオレの心でも、まだ捨てないでと思える心があるのか、オレは少しずつ自分を変える努力をするようになった。  流行りのことを調べて話題を持ち、笑う時は愛想良く。あまり身構えすぎずに、相手との丁度いい距離を探して。  意味があるのかは分からない。  だけれど、折角話すようになった相手を無くしたくはなかった。  変えようとし始めた当初、彼や彼の友達はとても驚いた顔をしていた。あの話からすると、オレがあっさり転がり落ちてきたように思ったのかもしれない。  前より少し距離が縮まり、頭を撫でられるようになって心臓が早音を打つ。顔も赤くなっていたのか、彼が格好よくクスクスと笑った。 ――そしてそのまま続けるんだ、『好きだ』と。  けれど、オレは違う。違うんだ。オレは、″好き″じゃない。  これは恋じゃない。恋であるはずがない。初めて話せた彼と友達になりたいだけ。初めてよく話すようになった相手への感情を、勝手に勘違いしかけているだけで、友達以上は望んでなんていない。  バクバクと動悸する心臓だって、ただ慣れていないからのはずだ。こうやって顔が熱くなるのも、話すことに慣れていないからだ。彼を目で追ってしまうのも、オレがいつ捨てられるのか定かじゃないから。 ――これは、気のせいだ。

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