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前編

 わがままなヤツは嫌いや。 「行広」 「んー?」 「トイレ行きたい」 「……から?」 「代わりに行ってきて」  ついでに、頭の悪いヤツも。 「冗談も大概にせえよ」 「本気だったら行ってくれんの?」 「アホか」  それでも、俺がコイツに惚れたのは事実で。  縮まない距離にイラついとるのも事実で。  簡単に言ってしまえば、  理想と現実は、果てしなく違う。 「桃太」 「ん?」 「トイレ行きたいんちゃうんか」 「行広が行ってくれないから、引っ込めた」 「……アホ」  ほんまにコイツはアホすぎる。  でも一緒にいられる時間が増えて喜んどる俺は、  もっとアホや。 「行広のバーカ」 「なんやと?桃太のマヌケ」 「行広のマヌケなタヌキ!」  意味のない会話がたまらなく楽しい。 「タヌキってなんやねん」 「この手紙のヒント」 「は……?」  唐突に差し出された封筒には、  ――立川行広様。 「え、俺宛て?」 「おう」 「お前から……?」 「おうよ。意味、明日までに解けよ?」 「解く?」 「正解だったら何かやるよ、じゃあな」 「って、どこ行くねん」 「トイレ」  やっぱり桃太はアホや。  そんなことを心の中で呟き、手紙の封を切る。  すると、やたら達筆な筆文字が並んでいた。 『まただいたまますきまたたまやで』

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