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幸福論

占いの載っているページを見て、ふと。 「なあ、アヤ。そーいえば誕生日いつなん?」 リビングから脱衣所にいるアヤにリョウが話しかけた。 シャワーを浴び、ルームウェアに着替えたアヤは、タオルで頭を拭きながら気怠そうに答える。 「何?」 「んー、占い見とって。来年の運勢やら相性やら載ってるから」 リョウにとっては運勢より、自分との相性を見たいんだろうなと容易に分かる。恋愛体質のリョウはどこまでも、乙女だ。 それに対してアヤは… 言わなければならないのか、というような目でリョウを見る。 「何やのー、自分が生まれた日やで!お祝いしたらな」 「別に生まれなくてもよかっ…」 「また、そんなこと!」 アヤが自分を愛していないことを、リョウは何となく分かってきた。それは何か過去にあったからなのだろうが、アヤが話す気になったら聞けばいいことだと、リョウはあえて自分から聞かない。 ただ、アヤが自身を否定するのはやはり寂しくて。アヤが大好きな自分でさえ否定されてる気がする。 だからついつい、反論してしまう。 「アヤが生まれてこなかったら、俺一人やったよ!」 ムキになるリョウ。その様子にアヤはヤレヤレと少し笑う。 「…盛りすぎじゃないの」 「で、いつなん?」 「2月」 「今月やんか!いついつ?」 「18日」 リョウは思わずテーブルに置いていた腕時計を見る。時計の中の日にちは「17日」だ。そして時刻は23時55分。 「な、何で言わへんの〜〜〜!」 あれやこれや、準備したかったのに!と頬を膨らますリョウ。 「でも…言ってなくて偶然この日にここに来れたの、すごくない?」 本当は先週だった逢瀬。たまたま二人とも都合が悪くなり、一週間ずれ込んだ。それが今日だったのだ。 あと少しで2月18日。 最愛の恋人と、誕生日になる瞬間を迎える。 何よりのプレゼント。 リョウが大きく手を広げて、アヤの身体をきつく抱き寄せる。 お互いに顔を見つめてキスをした。 そして腕時計を見ると、24時を過ぎて日付は2月18日に変わっていた。 「誕生日おめでとう、アヤ」 屈託のない恋人の笑顔。 リョウに出会えて、自分を愛してくれたこと。それだけで生まれてきてよかったと思える。 「ありがとう」 最高の誕生日を、ありがとう。

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