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第17話

 きゅっと唇を結び、青は玄関の扉を引いた。 「ただいま。」 ぼそりと粒やいた彼の前に慌ただしく若い衆が駆けつける。 「おかえりなさいやし!」 「夕飯支度できてますが、どうしやす?」 「新羅さん、呼んできやす!」 「補佐が、心配しとりやしたぜ!」 大の男が何人も口々に捲し立て、普通の人ならそれだけで物怖じしてしまうだろう。だが、青は、慣れた様子で手のひらをかかげると、 「夕食は申し訳ないですが、要りません。あの、お風呂沸いてますか?」 そう尋ねた。 「へえ!風呂も沸いとりやす!」 「ありがとう。じゃあお風呂入らせて貰うね。」 へい!へい!と、男達が頭を垂れる中、青は風呂場へと足を進めた。  早く、身体を洗いたかった。  中にまだ虎牙のが残っているような感覚がある。それを消したかった。異物感というか、鈍い痛みが思い出されて、青は身震いした。  汚い。  汚い。  汚い。  服をさっさと洗濯かごに放り込むと、洗面台の前にたった。あちこちに擦り傷がある。大したことはないが、青の心を蝕むには十分な傷痕だった。  僕は、僕でなくなってしまう。  こんな惨めな姿、誰にも知られちゃいけない。  さっさと洗おう。  浴室に入り、熱いシャワーを頭から思いっきり被った。

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