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第54 抱いた悋気 11
「だって私はギガイ様だけの御饌ですから」
「……そうか」
短い返事と共にギガイの掌がレフラの顔を掬い上げる。上向かされた状態で、立ち止まったギガイがレフラへ口付けを落としてきた。
唇の輪郭をそっとなぞる舌先に合わせて、レフラが唇を微かに開けば、ギガイが舌を差し入れて、歯列を辿り、慎ましやかに控えたままのレフラの舌を軽くなぞった。
そのまま絡められると思った舌が、なぜかすぐに引いていく。口腔内から呆気なく出て行った状況に、レフラは少し戸惑った。
「同じように舌を差し込んでこい」
唇が触れ合いそうな距離で囁かれる。
「同じ、ように、ですか……?」
途端に熱くなった顔は、きっと真っ赤になっているだろう。
(ギガイ様から見えない距離で良かった)
そんなことを思いながらも、緊張と羞恥でドキドキし始めた心臓と、唇の震えだけは隠しようもなかった。
どうにか自分から軽く舌を差し入れるようなキスができるようになったばかりなのだ。さっきギガイから与えられたキスは呆気なかったとは言え、しっかりと奥まで舌は差し込まれていたはずだった。
(そんなキスを自分からするなんて……)
レフラはコクッと唾を飲み込んで、戸惑いながらギガイの手をギュッと握った。
「ほら、さっさと差し込んでこい」
そんな様子や仕草からレフラの心情なんて筒抜けのはずなのだ。それなのに、急き立てるようにそう言ったギガイがレフラの唇に歯を立ててくる。
甘噛みというには強すぎる愛咬は、躊躇っていることへの仕置きなのだろう。
「……ぃ……ッ!」
走った痛みに顔を振って逃れれば、ギガイが「レフラ」と低い声で名前を呼んでくる。それ以上でも、それ以下でもなく。咎めるような音でもなかった呼び掛けだけれども、それだけで受け入れるしかないのだから。
「かま、ないで……」
レフラはそうやってお願いする以外に方法はなかった。
「唇は、な」
だけどレフラの懇願に対して返ってきたのはそんな答えだった。断定的に伝えられる言葉は、暗に他の場所へは責め苦が与えられるということなのだから。ギガイの言葉はレフラの不安をますます煽るだけだった。
「い、いたいのは、イヤです……」
「ケガはさせない」
「そうじゃ、なくて……」
「大丈夫だ。ちゃんと気持ち良くなると、もうお前も知っているだろう」
ギガイのその言葉にレフラはもう1度そうじゃないのだ、と首をフルフルと振って見せた。
レフラが痛みで快感を得るような質でなければ、ギガイも痛みを与えることに喜ぶような質ではない。
与えられる痛みは行為の中でのスパイスでしかないことも。痛みが快感へと変わることも。もうレフラだって分かっている。だけど最後はそうやって変わっていくその刺激が、レフラにとっては逆に不安で仕方がなかった。
そうやって与えられる快感は、普通に与えられる気持ちよさを簡単に凌いでしまうのだ。そしてそれは、呆気なくレフラの理性を飲み込んでしまうほどだった。
痛かったはずの刺激さえ、ギガイの手で書き換えられていく身体は、日に日に淫らになっているようで居たたまれなくなってしまう。
涙や色々な体液で濡れそぼって、グズグズに崩れた姿を思い返せば恥ずかしかった。淫らに強請る様にいつか呆れられないか、不安だって募ってしまう。
「レフラ」
だけどそんな不安の中で、もう1度名前を呼ばれてしまえば、レフラはもう覚悟を決めるしかなかった。
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