375 / 382
第171 幕の内側 2
しばらく黙ってギガイの腕の中に収まっていたレフラが、もぞっと身じろいだ。ギガイは離さないまでも、力を緩めて、腕の中でレフラを自由にさせた。
「……ギガイ様」
「なんだ?」
「これからも、ずっと一緒に居ましょうね」
「あぁ」
真っ直ぐに。飾ること無く真っ直ぐに。伝えられた言葉が、ギガイの胸に響いてくる。短くハッキリと肯定したギガイに、もう1度レフラが伸び上がってキスをした。
「良かった」
そのままニコッと笑ったレフラの表情は、なぜか悪戯めいた笑みだった。
「私も頑張るので、ギガイ様も頑張って下さいね」
「……私が、頑張るのか……?」
その笑みに、思わず警戒してしまう。
「そうですよ! だって、2人で一緒に居る為のことですから!」
「なるほどな。でっ、私は何を、どう頑張るんだ?」
「取りあえずは、私に振り回されること? だって、ギガイ様もご存知の通り、じゃじゃ馬で型破りな御饌ですから」
「…………」
開き直って、そんなことを言い始めたレフラに、ギガイは唖然としてしまう。その後自然と唇から「お前は……」と溜息混じりの声が零れた。
「分かっているなら、本当に少しは控えろ…………」
そのままギガイは、力無く天井を仰ぎ見た。
「イヤです。だって、そうしなきゃ、ギガイ様の隣に居られないですから」
こっちを見て欲しいというように、レフラが胸元を引っ張ってくる。分かった、分かった。とその手を握って制止して、ギガイが眉間を揉み込んだ。
「これからも、色々なことがあると思います」
ついさっきまでの悪戯めいた雰囲気は消えていた。真剣な声音に促されて、ギガイがようやくレフラへ視線を向け直す。
「ギガイ様が仰るように、知らなければ良かったと、思う日も来るかもしれない。それでも、何も知らないまま、ギガイ様の腕の中に抱えられているよりは、腕の中で同じ物を見ていたい」
腕の中の身体はあまりに華奢で、脆そうだった。何度も涙を零す儚げな様子も見てきている。それでも、レフラはこうやって、最後は真っ直ぐにギガイを見つめてくる。
「ギガイ様にとって、私はまだまだ頼りないと思うけど。でも、頑張ります」
揺らぐことのない目は、ギガイと共に進む道に、迷いがないからだろう。
「……お前は、強いな」
「私がですか?」
まさか。そんなことをギガイから言われるとは、思ってもいなかったのかもしれない。
「ギガイ様のように、戦えないのに……?」
「あっ、でも」と戸惑いと照れが入り交じったような表情が、レフラの顔に浮かび上がる。
「疲れたり、傷付いたギガイ様を、こんな風には癒やせますね」
いつかのように、ギガイの頭をレフラがキュッと抱き締めた。
「もしもギガイ様が泣きたくなったら、今度は私が胸をお貸しします」
言葉をどれだけ重ねても、想いが届かなかった日々。ツラいと泣くレフラを前に、1度だけ流れた涙。
「あぁ、そうだな……」
それを知るはずもないレフラに抱え込まれ、あの日の涙が癒やされていく。ギガイは目を閉じて、レフラの胸に頭を預けた。
ともだちにシェアしよう!