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第171 幕の内側 2

しばらく黙ってギガイの腕の中に収まっていたレフラが、もぞっと身じろいだ。ギガイは離さないまでも、力を緩めて、腕の中でレフラを自由にさせた。 「……ギガイ様」 「なんだ?」 「これからも、ずっと一緒に居ましょうね」 「あぁ」 真っ直ぐに。飾ること無く真っ直ぐに。伝えられた言葉が、ギガイの胸に響いてくる。短くハッキリと肯定したギガイに、もう1度レフラが伸び上がってキスをした。 「良かった」 そのままニコッと笑ったレフラの表情は、なぜか悪戯めいた笑みだった。 「私も頑張るので、ギガイ様も頑張って下さいね」 「……私が、頑張るのか……?」 その笑みに、思わず警戒してしまう。 「そうですよ! だって、2人で一緒に居る為のことですから!」 「なるほどな。でっ、私は何を、どう頑張るんだ?」 「取りあえずは、私に振り回されること? だって、ギガイ様もご存知の通り、じゃじゃ馬で型破りな御饌ですから」 「…………」 開き直って、そんなことを言い始めたレフラに、ギガイは唖然としてしまう。その後自然と唇から「お前は……」と溜息混じりの声が零れた。 「分かっているなら、本当に少しは控えろ…………」 そのままギガイは、力無く天井を仰ぎ見た。 「イヤです。だって、そうしなきゃ、ギガイ様の隣に居られないですから」 こっちを見て欲しいというように、レフラが胸元を引っ張ってくる。分かった、分かった。とその手を握って制止して、ギガイが眉間を揉み込んだ。 「これからも、色々なことがあると思います」 ついさっきまでの悪戯めいた雰囲気は消えていた。真剣な声音に促されて、ギガイがようやくレフラへ視線を向け直す。 「ギガイ様が仰るように、知らなければ良かったと、思う日も来るかもしれない。それでも、何も知らないまま、ギガイ様の腕の中に抱えられているよりは、腕の中で同じ物を見ていたい」 腕の中の身体はあまりに華奢で、脆そうだった。何度も涙を零す儚げな様子も見てきている。それでも、レフラはこうやって、最後は真っ直ぐにギガイを見つめてくる。 「ギガイ様にとって、私はまだまだ頼りないと思うけど。でも、頑張ります」 揺らぐことのない目は、ギガイと共に進む道に、迷いがないからだろう。 「……お前は、強いな」 「私がですか?」 まさか。そんなことをギガイから言われるとは、思ってもいなかったのかもしれない。 「ギガイ様のように、戦えないのに……?」 「あっ、でも」と戸惑いと照れが入り交じったような表情が、レフラの顔に浮かび上がる。 「疲れたり、傷付いたギガイ様を、こんな風には癒やせますね」 いつかのように、ギガイの頭をレフラがキュッと抱き締めた。 「もしもギガイ様が泣きたくなったら、今度は私が胸をお貸しします」 言葉をどれだけ重ねても、想いが届かなかった日々。ツラいと泣くレフラを前に、1度だけ流れた涙。 「あぁ、そうだな……」 それを知るはずもないレフラに抱え込まれ、あの日の涙が癒やされていく。ギガイは目を閉じて、レフラの胸に頭を預けた。

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