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第6話 感じて

「Lick」の定休日、弘海と史は買い物に出かけた。日用品、着替えなどをたっぷり買い込んだ。 弘海の作った夕食を食べ、ビールを何缶も空けた。 史がシャワーに入っている間に、弘海は買ったばかりのシーツを取り出した。 今まで敷いていたシーツを剥がしたとき、弘海の手が止まった。ほんのりと甘い香りがシーツから漂う。弘海の香水とは違った。史は香水をつけていない。シーツを持ったまま考えていた弘海のすぐ後ろから、史の声が聞こえた。 「手伝う?」 濡れた髪の史が立っていた。新調した淡いブルーのTシャツと、グレーのスウェットから、石鹸の匂いがした。 弘海は思いついて史の身体を引き寄せて、首筋に顔を近づけた。 「な、何?いきなり」 「・・・違うか」 「に・・・匂う?シャワー入ってきたけど・・・」 史の真剣な受け答えに弘海は吹き出した。だから何、と頬を膨らませて文句を言う史に、弘海は笑って答えた。 「いや、悪い・・・、ちょっとこれ、気になっただけ」 甘い香りのことを話すと、史は首を傾げた。そして、横目で弘海を見て、楽しそうに言った。 「弘海、誰か連れ込んだんじゃないの?」 「お前なあ・・・いつそんな暇あったよ?もう2週間俺と同じベッドで寝てんだろーが・・・」 弘海は言いかけて、史が目を見開いて顔を赤くしているのに気づいた。 自分の中にも、少しひっかかる感覚があったがそれは隠して、弘海はわざとおちゃらけて見せた。 「あらあ、照れてる?史ちゃんったら童貞みたい~」 「いきなりオネエに戻るのやめてよ・・・」 「まあ、確かに2週間一緒のベッドに寝てて、何もないってのは・・・俺も初めてかもな」 「・・・そうなんだ」 急に黙り込んだ史に、弘海はつとめて明るく言った。 「史は荒れてたからな・・・これから誰か、一緒にいたいと思う奴見つけたらいいよ。男見る目も少し養われたろ?」 「弘海は・・・」 「ん?」 「何で俺を拾ってくれたの」 史のまっすぐな視線に怯みそうになったが、何てことない風を装って弘海は答えた。 「何でって・・・可愛かったから、かな」 「またそうやってはぐらかす・・・」 「はぐらかしてない」 弘海の声の真剣さに、史は息を飲んだ。 「本当に、可愛いと思った」 「弘海・・・」 「でも・・・いつもみたいに簡単に手は出せないんだよな」 「・・・荒れてたから?」 「それもあるけど・・・なんていうかな・・・」 弘海は言葉を探して、自分の髪をくしゃくしゃに乱した。 「なんか、こう・・・汚せないっつーか・・・」 「もうさんざん汚れてるよ」 「そうじゃなくて、うーん・・・」 弘海が悩んでいる間に、史はすぐそばに近づいていた。その距離に、弘海は声を失った。 少し動けばお互いの唇が触れられそうな、微妙な距離を保ったまま、史は言った。 「今まで、誰と寝ても、気持ちよかったことなんかないんだ」 「史・・・」 「初めての相手は・・・叔父だった。高校生の時・・・身体が細くて女の子みたいだったから・・・」 「やめよう、史」 「そのあとも、大学の先輩とか、この間まで勤めてた会社の上司とか・・・何だか知らないけど俺の身体はハンパなくいいからやらせてほしいとか・・・」 「もういい・・」 「ハッテン場にでも行けば相手が出来るんじゃないかって試したけど、結局どいつもこいつもこの身体目当てで・・・」 「史!!」 弘海は史を抱き寄せた。史の細い腰がバランスを崩して、弘海の身体に寄りかかった。風呂上がりの史の体温が、薄いTシャツを通して弘海の身体にも伝わってくる。 「もういいって。それは過去の話だ」 弘海は史の顔を親指で持ち上げた。史の瞳は、目線一つ高いところにある弘海を悲しげに見つめた。 弘海の唇が、史の唇を覆った。 優しく、弘海の舌が史の唇を割った。それを受け入れ、史は弘海の首に両腕を回した。史の身体から漂う清潔な石鹸の香りに、ほんのり甘い香りが混じる。それは弘海がシーツから感じた、あの香りだった。 弘海は史を抱き上げて、ベッドに運んだ。 「ん・・・っあ・・・」 清潔なシーツの上に史の身体を横たえさせ、その首筋に弘海は唇を寄せた。キスマークをつけるほどの強さで肌を吸うと、その都度、史は身体を反らせて喘いだ。そして史が声を上げるほど、甘い香りも強くなった。 弘海が史のTシャツをたくし上げ、裸の胸が露わになると、史の手も弘海のシャツをはだけさせようと伸びた。弘海は服を脱ぎ、熱くなり始めた自分の肌を史に重ねた。 史の乳首に弘海の舌が触れると、切ない声が口から飛び出した。 その声の高さに、史が思わず自分の口を両手で覆った。 「どうした・・・?」 「・・・っ女の子・・みたいな・・声・・・出っ・・」 「それが・・・本当に気持ちのいい時に出る声だから・・・」 「恥ず・・・しっ・・・ん・・」 「もっと聞かせて」 「あ・・・っんん・・・・あ・・」 弘海は悶える史の乳首を舌で弄びながら、少しずつ手を降ろして行った。スウェットの上から史のそこに触れると、すでに熱い。布越しの感触に史の腰がうねりだす。 「ひ・・ろみ・・っ・・んっ・・」 「どうして欲しい・・・?」 「や・・・あっ・・・」 「して欲しいこと、全部、言えよ・・・」 「・・・さ・・・触っ・・・て・・・」 クロスした両腕で顔を隠し、史はやっとの思いで願いを口に出した。 その腕を左右に開き上気した史の顔を見て、弘海は耳元でささやいた。 「本当に・・・ないのか、こうして欲しいとか、言ったこと・・・」 「・・・ないよっ・・・」 「史・・・」 「こんなに・・・優しくされたこと・・・ない・・」 言い終わるが早いか、弘海は少し荒々しく、史にキスをした。舌を絡め、息苦しくなるほど長い間、唇を離さなかった。 弘海は史の顔に優しく手を添えて、額と額を合わせた。 「今日はお前の好きなことだけする」 「ひ・・ろみ・・?」 「お前が気持ちよくなることしかしない。だからちゃんと・・・」 最後まで言い終わらない内に、史が上から見つめる弘海を抱き寄せた。 その後は、何も話すことはなかった。

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