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第3話
もし、六條家に新しい猫がいたら……実玖 がずっと考えて不安に思っていたこと。知らない猫が大切にされている姿をできれば見たくない。この話は聞きたいけど、聞きたくない。
「三年前に……」
伍塁 が言いかけて言葉を止めた。唇を噛んだ後に部屋の隅に目を向け、息を小さく吐いてから話し始める。
「三年前に21歳で亡くなった猫が最後でそれ以来、猫はいない。あの猫ちぐらは、その猫が気に入っていたもので処分できなくて」
そう、とても気に入っていた。少し外側は毛羽立っているがとても丈夫で頭から中にはいって180度向きを変えても安定しているのも快適だった。敷いてあるフリースの敷物はいつもキレイなものに替えてくれた。中にいると伍塁が覗き込んで手をどちらが押さえるか、交互に上にしたり下にしたりして遊んだ。
実玖はまた涙で視界が揺れそうになるのを我慢しながら、自分はここにいると心の中で訴えた。聞こえるはずはないのに。
「その猫は僕と会話出来てたんだ。おかしなこと言うと思うだろうけど、でも本当。だから亡くなる時に、また会えるよって言われてそれを信じてるというかなんというか」
そこまで話して伍塁は実玖を見て目を細めた。
「猫のミルクにまた会えたような、名前だけでそんな風に思ってしまって。今どき住み込みで働いてくれる人ってどんな人かと心配だったから、意味もなく少し安心してる」
実玖の目から我慢出来なくなった雫が落ちた。慌ててポケットからハンカチを出し、目にあてる。
「すみません、感動しちゃって」
「え? 感動? そうなの?」
伍塁は不思議そうにしている。実玖はハンカチをしまい、顔を両手で挟んだあとに前髪を手の甲で撫で下ろした。
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