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第12話
「えっと、今あるのは……ちくわ、たまご……あとは玉ねぎとかツナ缶とか」
伍塁が冷蔵庫から出したものと戸棚から使いかけの乾物を並べてくれたので実玖はサッと目を走らせ献立を思い浮かべた。
「大丈夫です、出来ます。まずご飯を炊きたいのですが」
家のことは何でも知っているつもりの実玖だったが炊飯器やオーブンのことはあまり気にしたことがなかった。出てきたものにおねだりをするだけだったから、危なそうなモノや自分に関係ない物には近づかなかったのだ。
「炊飯器壊れてから置いてないんだ、鍋で炊ける?」
「炊けます、出来れば土鍋がいいのですがありますか。あとフライパンできれば二つと鍋をひとつ使います」
収納場所や調味料を確認しながら習った通り調理をする前には必ず手を洗う。まずは鍋に水を入れ火にかけた。
「伍塁様のお好きな味にしたいのですがお出汁にこだわりは?」
「こだわり……あるのかな、よくわからないけど鰹節はいつもこれだよ」
見せてくれた鰹節の袋を開けた瞬間、ふわっと頭の奥まで匂いが届き実玖は思わずその一枚をつまんで口に入れてしまった。
「あ! 申し訳ございません。すごくいい香りでつい……」
口を手で覆いながらも口の中に広がった香ばしい旨味と鼻に抜ける香りがたまらなかった。これは伍塁の祖母が時々猫のミルクに分けてくれてたものだ。出汁用の厚みのある削り節で、端の硬い欠片が大好きだった。口の中で舐めたりかじったりして飲み込むまで何度も楽しんだ、あれだ。
伍塁はちょっと目を見開いてすぐに細めた。
「もしかしてこだわりがあったのかも。ミルクも好きだったな」
伍塁もひとつつまんで口に入れ指先をぺろっと舐めた。
(指先舐めてあげたいな……)
伍塁が舐めた指先をティッシュで拭うのを見つめ、実玖は思わずペロリと唇を舐めた。
「やっと緊張が解けてきた? 楽しくやろうよ。僕は人見知りしないみたいだから、いきなり馴れ馴れしくてごめんね」
実玖は熱くなった顔を両手で挟み伍塁に視線を向けすぐ目を伏せた。
「ありがとうございます、もう既に楽しいです……。あの、お米……」
「僕がとぐから他のことやって?」
「はい、お願いします!」
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