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ちょうどよさ
「ユタ……オレ、告白したいんだけど」
ボソボソと言うのは伊月先輩らしくない。
「俺たち、マジで付き合います?」
でも、いつものノリかと思って俺は軽く言った。
それなのに、伊月先輩は真剣な顔していた。
「何があったんすか?」
真面目なトーンで聞いてみると、伊月先輩の表情が和らぐ。
「オレ、ゴンちゃんと付き合うことになったんだ」
本当にびっくりした俺はすぐにゴン主任を見ると、赤らめた顔を右手で掻いていた。
「だって、ゴン主任……竹富課長と」
「バーカ、オレ全部教えてもらったわ」
えっ!?と素っ頓狂な声を出して伊月先輩を見ると、鋭い眼光が刺さった。
ナメんなよという威嚇と裏切ったなという不信を感じ取る。
「すいませんでした」
俺は申し訳なくて深く頭を下げた。
怒号が飛んでくるかとビクビクしたが、本当に飛んできたのは地味な痛み。
「いったぁ!」
子どもみたいな叫び声を上げて伊月先輩を見ると、ニヤニヤしながらキツネの形に作ったのを跳ねらせていた。
「水くさいことすんなよなぁ、オレとユタの仲がそんなんで壊れるわけないじゃんか」
バカ、と付け加えて穏やかに微笑む伊月先輩を見て、俺も安心して微笑み返す。
「でも、イチャイチャは止めないからな……見せつけてやろうぜ」
低い声で言うから笑いを殺してゴン主任を見ると、わなわなと震えていた。
バランスがいいのが心地よいなんて普通過ぎる。
アンバランスなちょうどよさがクセになるのだ、俺らは。
<完>
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