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scene14-04 ★

「ぅ、あ……あぁっ」  間髪をいれずに指を増やされ、手首を回すようにして体の中を荒々しく広げられる。  三本目が入ったところで指を引き抜かれて、代わりに熱く滾ったものが宛がわれた。先端を擦りつけつつ、大樹が苦笑交じりに口を開く。 「やっぱりお前チビだな。挿れにくい」 「ムッカぁー……つ、つーか、やっぱり部屋でっ」 「それはない」  言って、大樹は誠の片足を持ち上げる。不安定な体勢に誠が動揺していると、膨れあがった屹立が体内を割って入ってきたのだった。 「ん、んぅっ」 「……誠」  低く甘い声に鼓膜が揺れ、蕾は大樹の分身をきゅっと締めあげる。  首筋にかかる吐息は熱く、いかに自分を求めてくれているのか伝わってきた。  真っ直ぐに向けられる欲望がどうしようもなく嬉しく、今まで保っていた理性もふっと飛んでしまうのを感じた。 「いいよ、大樹。……いっぱい、気持ちよくして?」  誘うような台詞が、自然と口をついて出る。  虚をつかれたように息を呑む気配がして、一呼吸。半ばまで挿入された大樹のものは、深々と奥を貫いてきた。 「あぁぁッ!」  喉奥から悲鳴のような叫びを放つ。あまりにも強すぎる刺激に目が眩んだ。  片足を持ち上げられているせいか、二人の結合がいつもより深く、体内は少しの隙間もなく大樹のもので満たされていた。 「あっ、あ、あぁっ……」  屹立の反り返った部分が最奥を抉ってくる。ぐっぐっと強く押し上げられるたび、息が弾み、意図せず腰が揺れた。 「ん、ぁっ、奥、当たってる……これ、いいっ」  身を震わせながら口にすると、大樹は掠れた声で返してくる。 「誠の中、熱い……ずっとヒクついてる」 「あっ、ン、あぁっ、だって、きもちいからぁっ……」 「――」  俺も、と言うように、うなじに優しくキスされて胸があたたかくなった。  嬉しさに「好き」と伝えれば、同じように返されて、また幸福感で満たされていく。 「っあ! あん、あぁっ」  甘ったるい雰囲気はそのままに、大樹が律動を激しくさせる。肩越しに見上げた顔は、いつものポーカーフェイスが崩れていた。 「んぅっ、や……だいきっ、激し……ッ」 「悪い。もう抑えられない」  容赦のない、切羽詰まった腰使いによがり泣く。激しい責め立てに身を任せるしかなく、気がつけば、誠はつま先立ちになって体が浮いていた。 「あっ、や、も、むりぃ……立ってらんないっ」 「支えてやるから、もう少し楽しませろ」 「う、あ! ぁあっ、ン、ああぁ……っ」  ずるずると体勢を崩せば、すぐに抱きかかえられ、不安定な体勢のまま腰を揺すられる。  浴室という状況下で反響する、艶めかしい嬌声と激しく肌がぶつかる音。それらがいやに耳に響いて、羞恥と快感とが交錯し、滅茶苦茶に追い立てられていった。 「……ッ」 「ぁああぁっ……!」  大樹の熱い体液が体内に吐き出され、誠も目を見開いて絶頂を迎える。己のすべてを出し尽くすと、ぐったりと壁にしなだれかかった。 「大丈夫?」  今にも崩れ落ちそうな体を、背後から優しく抱きとめられた。体重を預けながら、ゆっくり腰を下ろして息を整える。 「……疲れたから体洗って」  色気とは無縁の言葉に、大樹は口元を緩め、「仕方ないな」と頭を撫でてきたのだった。  夕食の時間がやってくると、館内のレストランに向かった。  席には、食前酒と彩り豊かな前菜が用意されている。会席料理のプランを予約したと事前に聞かされていたものの、いざ目の当たりにすると萎縮してしまうものがあった。 「すげぇ~……しゃ、写真撮っとこ」  いつものようにスマートフォンで写真を撮るのだが、どうにも落ち着かない。そわそわとする誠を見て、微笑とともに大樹が話しかけてきた。 「緊張してるのか?」 「だ、だってこーゆーの初めてだし、こんな贅沢していいのかなって」 「なに言ってるんだ。まだ前菜だぞ?」 「いやまあ、そうなんだけど。あと、ここまでされたら、お前の誕生日プレゼント悩んじゃいそう」  言えば、大樹はフッと笑う。口から出るのはもちろん甘い言葉だ。 「気にしなくていい。俺がこうして一緒に旅行したかっただけだ」 「あのなあ、ンなこと言ってると、いつまでもお前に甘えっぱなしだぞ」 「いいよ。いくらでも甘えてくれて」 「う……」  なんて甘ったるいのだろう。そう思うのに、つい真っ赤になって狼狽えてしまう。 (なんで、さらりとそんなこと言えちゃうかな! 恥ずかしいと思わないワケ!? てゆーか、喜んじゃう俺のがアレ!?)  ぐるぐると考えている間に、大樹が食前酒のグラスを手に取って目配せしてきた。誠も慌ててグラスを持つ。 「それじゃあ――二十歳の誕生日おめでとう、誠」 「あ、ありがとう、ございます……えと、君の瞳にカンパイなんつって」 「お前、『カサブランカ』見てねーだろ」  目の位置までグラスを持ち上げて乾杯し、口に持っていく。誠にとって初めての飲酒だ。  食前酒は香りのいい梅酒だった。すっきりとした甘みと酸味が、すーっと鼻を抜けていって、体がじんわりと火照っていく気がした。 「これが酒かあ。飲みやすいってゆーか、甘くて好きな味かも!」 「それはよかった。にしても、やっと一緒に飲めるな」 「あっ、それな! 成人式とか、みんなフツーに飲んでてさあ」 「あれは、誕生日迎えてないヤツも飲んでそうだけど」  そうこう話をしているうちに、緊張もいつの間にかなくなり、楽しい気分で会席料理の数々に舌鼓を打った。  旬の魚を使った御造りや焼き物、綺麗に盛り付けられた煮物、黒毛和牛を使用したすき焼き……どれもこれも見た目だけでなく非常に美味で、頬が落ちてしまいそうだった。 「どうせ誠のことだ、まだ食えるだろ?」  大樹は極めつけにホールケーキの用意まで頼んでいたらしく、旅館側からサプライズで出されたそれを見れば、言葉にならないほどの幸福感が押し寄せくる。 「やっぱ大樹ってずりぃ!」 「なにがだよ」 「へへっ」  大好きな人と特別な日を過ごす時間は、すごく幸せに満ち足りていて、溢れんばかりの笑顔を浮かべる誠なのだった。

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