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intermission いたいけペットな君にヒロイン役は(EX5) ★
「この歳になって、こんなの着るとかアホか」
大樹はネクタイの形を整えつつ、独りごちる。
ネクタイといっても、着用しているのはスーツではなく高校時代のブレザーだった。
制服を着るのは、言うまでもなく高校の卒業式以来だ。自宅というプライベートな空間ではあるが、恐ろしく違和感があり恥ずかしい。
何故、このような事態になったかというと、
「着替え終わった?」
ノックもせず大樹の部屋に入ってきたのは、その元凶である誠だ。彼も同じく、ブレザーに身を包んでいた。
「あっ、終わってる終わってる!」
誠は身を寄せるなり、スマートフォンのカメラアプリを起動させる。
聞くところによると、高校時代の制服を着て写真を撮り、グループLINEなどの仲間内で見せ合うのが流行っているらしい。
帰省した際に、誠が制服を荷物に詰めていたので、気になってはいたのだ。
まさかこんなことになろうとは思わなかった。「そういえば俺も、捨てられずに取っておいてあるな」と、何も知らずに口にしてしまったのが駄目だった。
まんまと付き合わされたというわけだが、他ならぬ恋人の頼みとあっては仕方ない。
「おお、いいカンジじゃんっ」
「そうか?」
「ん! めっちゃいい!」
パシャパシャとスマートフォンがシャッター音を立てる。楽しげな顔を見るだけで、すべて許したくなってしまうのだから、実に自分は甘いと思った。
(それに、思いのほか悪くないな)
制服姿という、懐かしの姿を見て気分の高揚を感じた。大学四年生にもなるのに、誠は――少なくとも外見的な面では――何ら変わっていない気がする。
「なんか、あの頃に戻ったみたいだなっ」
やがて満足したのか、誠がスマートフォンを下げて笑いかけてきた。
しかもツーショットの距離感だ。本人にその気はないのだろうが、どうにも掻き立てられるものがあった。
「まあ……あの頃はこんなことしたくても、できなかったけどな」
誠の肩を引き寄せて、耳朶に唇を這わせる。
「わっ! な、なにしてんだよっ」
誠が小さく身を震わせるも構わず、ねっとりと舐めあげた。
優しく食んで、耳からうなじ、首筋、頬……と口づけを落としていく。
「んっ……ん、ぅ」
「誠」
名を呼べば視線が絡み、やんわり唇を重ねて啄むように柔らかさを味わう。
舌先がおずおずと差し出されれば、吸いつくように自分のものと絡ませた。気がつけば、吐息交じりの濃厚なキスへと移り変わっていて、
「ヤバ……したくなってきたかも」
すっかり出来上がってしまったようで、誠は恍惚とした表情を浮かべている。
「キスだけで?」
「ん……」
問いかけに対し、恥ずかしげに小さく頷かれた。
それを見て、また狡猾な手段を取ってしまったと内心反省する。
彼のことは熟知しているし、いつもキスだけで欲情してしまうと気づいていた。仕向けたのは、間違いなくこちらだというのに、つい知らぬ顔をしてしまう。
「大樹――し、しよ……?」
潤んだ瞳で誘われれば、逸る感情を抑えることなんてできない。
大樹は性急な手つきで誠のネクタイに手をかけ、ワイシャツのボタンを外したのだった。
「ン、ぁ……これ暑いっ」
ベッドの上で繋がったまま、誠が暑苦しいとばかりに服に手をやる。
彼の主張も当然だ。ブレザーもワイシャツも着たままでボタンを開けただけ。スラックスは片足にかけっぱなし――できる限り衣服を脱がさずに体を重ねているのだから。
「バカ、脱ぐなよ」
「なんでだようっ」
「その方がエロいからに決まってるだろ」
「なっ!? だ、大樹のスケベ! つーか、もうヘンタイだッ!」
「……減らず口を叩くヤツはこうだ」
「え? あっ、やだ、それっ……ン、あぁあぁッ!」
誠の片足を肩にかけると、渾身の力を振り絞って屹立を押し込んだ。誠は強すぎる衝撃に達してしまったらしく、己の腹部に白濁を散らせる。
「相変わらず堪え性がないな」
「う、うっさい~……」
(……可愛いな)
悪態をつきながらもビクビクと全身で悶える姿が愛おしく、さらに責め立てたい衝動に駆られた。自身が痛いくらいに締めつけられるのを感じながら、鋭く腰を突き動かす。
「っあ! あっ、ああッ」
「誠、キツすぎ」
「や、ぁっ……いじわるっ、大樹のいじわる!」
「可愛いお前が悪い」
乱れる誠の胸元に口づけ、強く吸いあげては鬱血の痕を残していく。
制服を着てこのような行為に及んだことはないのに、ふと既視感を感じ、そしてすぐに思い当たった。
合致するのは、頭の中で彼を汚していた過去。決して叶うとは思わなかった、醜い妄想の産物だった。
「大樹?」
少しぼんやりとしてしまったようで、気がつけば、誠がとろんとした顔でこちらを見上げていた。苦笑して、柔らかな頬を撫でる。
「好きだよ、誠」
それは長いこと言えなかった言葉だ。
今思えば、相手のことを考えているようで、自分が傷つくのが怖かったのもあったのだろう。
本当は臆病で卑劣なくせに、大人ぶってそのような自分を隠すのが得意になってしまった。独占欲だけではない、言えないネガティブな感情なんて山ほどある。
「うん、俺も大樹のこと……好き」
だというのに、誠は同じ気持ちを率直に返してくれる。きっと後ろ暗い一面を知ったうえで、それすらも受け入れて。
だからこそ愛おしくて堪らない――心から大切にしたいと思うのだ。
「うあっ、あン、あぁ……っ」
腰を掴んで律動を再開する。より深く激しく、感情を露わにするように自身を捻じ込み、華奢な体をガクガクと揺さぶってやった。
「誠、好きだ」
「あぁっ……ぅ、あっ!」
「好きだよ」
何度も口にしながら、欲望のままに追い立てていく。
繋がった部分から全身が蕩けるような快感が広がり、限界が近いことを悟った。
また、それは誠も同じらしく、欲情しきった表情で腰を淫らに振るのだった。
「あ、あぁっ、キス……キスしながらイキたいっ、だいき……っ!」
せがまれるまま、唇を重ねて昇り詰める。誠が絶頂を迎えたのは間もなくだった。
「んっ、んんん~っ!」
「っ……」
屹立を締めつけられて、そのまま誠の体内で果てる。最後の一滴まで熱を出し尽くしてから、そっと唇を離して見つめ合った。
「また『好き』って言うつもりだろ」
荒い息を吐きながら誠が言う。
「どうしてわかった?」
「口癖かっていうくらい、言いすぎ」
「そりゃあ、何度でも言いたいからな」
(……今まで言えなかった分も)
数ある未来のなかから、自分とともにある未来を選んでくれたのが嬉しくて――大樹は再び甘い言葉を繰り返すのだった。
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