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今更だが、誘いを受けてしまったのは失敗したかもしれない。 やっぱり今すぐにでも逃げるべきか迷っていれば、それほど離れていない公園に辿り着いてしまう。 街灯に照らされた小さな公園は、やはり時間帯のせいか他に人はいなくて、ひっそりとしている。 ……場所も間違ったかもしれない。 「先にあのベンチに座って待っていてくれないか?」 「あ、はい……」 「すぐに行く」 そう言うと、男性は入口近くの自販機へと向かっていく。 納得して、言われた通り公園の中のベンチに座って待つことにした。 すると男性を待っている間とはいえ落ち着いたせいか、急に家の問題を思い出して重たい溜息が出る。 「……どうしよう」 あのアパートを失くしたら、俺には行く場所がない。 ……実家は捨てたのだ。思い出したくもない。 高校を卒業して仲の良かった友人とは離れ離れだ。大学にも親しい人間はまだいなくて、頼れる人もいなかった。 鬱々としていれば、不意に頭上に差した影にのろのろと顔を上げる。 「君は珈琲で良かっただろうか?」 男性の手には二本の缶珈琲があり、片方を差し出してくれる。 自分の分も買ってきてくれるとは思わなくて驚いてしまった。 「大丈夫です。ありがとうございます……」 「ああ」 受け取れば、熱い缶珈琲に冷えていた手が温められる。 心が弱っているせいか、男性の優しい気遣いに胸がじんわりとなって、不覚にも泣きそうになってしまった。 きっと潤んでいるだろう瞳を見られたくなくて俯けば、男性が隣に座る。 「あの時、急にプロポーズをしてすまなかった。君を前に気が急いてしまった」 まさか謝られるとは思っていなくてどう返事をすればいいか分からず、視線を地面に彷徨わせる。 それに、聞き間違いでなければプロポーズと言われた気がする。 ……もしかして、冗談じゃなかった? 途端、血の気が引いていく。流石にもうそうとしか思えなかった。

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