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第1話

「おい、購買でヤキソバパン買って来い」  目の前の机に、500円玉が投げ出された。  うつむき加減の眼では言葉の主の顔は見えないが、見なくてもわかる。  梶 伸也(かじ しんや)。  このクラスで一番の、ワルだ。 「聞こえなかったのかよ。早く行けよ」  返事もせず、明石 努(あかし つとむ)は金を握ると立ち上がった。  努がパシリをさせられるのは、これが初めてではない。  いや、同じクラスになってから、ほとんどずっとだ。  パシリだけではない。  その他いくつもの雑用を、努は伸也にいいつけられていた。 『俺のシューズ、月曜までに洗って持って来い』 『教科書忘れた。お前の貸せ』 『掃除当番、代わりにやっとけ』  数えあげると、きりがない。  歯向かうのも面倒で、黙って言うことをきいてきたが、最近さすがに嫌になっていた。

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