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第一章 髭【あの、な。優希。俺と付き合って……くれないか?】

 とんとん、と優希(ゆうき)は人差し指で自分の顎を軽く二度つついた。  目の前には、要人(かねと)。    彼は優希のジェスチャーに照れくさそうな顔をした後、顎をざらりと撫でた。  顎には、もう人目にも解かるようになってきた髭が。  朝から鏡を見ないような、無精な男ではなかったはずだけど? 「おかしいかな」 「おかしいと言えばおかしいし、解かると言えば解かる」  二人並んで歩道を歩く。幼い頃からもう何年も変わらない、二人の日常を歩く。 「伸ばすのか、髭」  二人の通う高校の校則では、髭を伸ばす事は違反ではない。教室には少なくとも5名程度は髭を整えている男子がいる。 「うん。似合うかな、変じゃないかな?」  それは伸ばしてみないと解からないな、と優希は笑った。しかしまた、なぜ。 「イメチェンか? それとも、早く大人として周囲に扱ってほしいのかな」 「両方さ」  そう言う要人の眉尻は下がり、情けない表情になってしまっている。 (来た)    優希は、ピンときた。  こんな顔の要人を見るのは、これが初めてじゃない。  そして、その後に続く言葉も知っている。

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