1 / 127
第一章 髭【あの、な。優希。俺と付き合って……くれないか?】
とんとん、と優希(ゆうき)は人差し指で自分の顎を軽く二度つついた。
目の前には、要人(かねと)。
彼は優希のジェスチャーに照れくさそうな顔をした後、顎をざらりと撫でた。
顎には、もう人目にも解かるようになってきた髭が。
朝から鏡を見ないような、無精な男ではなかったはずだけど?
「おかしいかな」
「おかしいと言えばおかしいし、解かると言えば解かる」
二人並んで歩道を歩く。幼い頃からもう何年も変わらない、二人の日常を歩く。
「伸ばすのか、髭」
二人の通う高校の校則では、髭を伸ばす事は違反ではない。教室には少なくとも5名程度は髭を整えている男子がいる。
「うん。似合うかな、変じゃないかな?」
それは伸ばしてみないと解からないな、と優希は笑った。しかしまた、なぜ。
「イメチェンか? それとも、早く大人として周囲に扱ってほしいのかな」
「両方さ」
そう言う要人の眉尻は下がり、情けない表情になってしまっている。
(来た)
優希は、ピンときた。
こんな顔の要人を見るのは、これが初めてじゃない。
そして、その後に続く言葉も知っている。
ともだちにシェアしよう!