61 / 122

第5話 エロス&インテリジェンス・5

「す、すみません。先生、具合が悪いので保健室に行ってきてもいいですか」  四時限目終了まであと十五分だけど、今すぐサバラに文句を言わないと気が済まない。しかも万が一これが天和の手に渡ったら、どんな辱めを受けることになるか。考えただけでも恐ろしい。  教室を出た俺は改めて眼鏡をかけ、保健室へ行くため廊下を歩いて行った。保健室は二年の校舎を出て右隣り、一年校舎がある一階だ。授業中で生徒もいないし、視界もはっきりしている。これなら五分かからず辿り着ける。  ──よし。  なるべく早足で廊下を歩き、下足室へと続く校舎の出口を目指す。道中、横目で盗み見た各教室の中ではやはり生徒も教師も全裸になっていた。試しにもう一度テンプルのボタンを押してみたが結果は変わらない。  自棄になって連打しても変わった様子はなく、俺は諦めて一刻も早くサバラの元へ向かうことにした。 「視力を奪うのも絶対的に悪いけど、無理矢理人を裸にして見るなんてそれと同じくらい極悪だ……」  ぶつぶつ言いながら一年校舎に入り、数十メートル先に見える虫歯撲滅のポスターに向かってずんずんと進んで行く。取り敢えずこの服が透ける機能をオフにしてもらって、後は何があっても二度とボタンを押さなければいい。眼鏡としての機能なら申し分ないのだ。 「──サバラッ!」  ドアを開けた瞬間、眼鏡越しにとんでもない光景が飛び込んできた。 「……ん、あっ、……い、痛いです、先生……」 「我慢して。じっとしてないと、もっと傷付けてしまうよ。僕に全てを委ねて」 「………」  目の前に広がった光景──それは全裸の彰良先輩が、同じく全裸のサバラに太股を弄られて見悶えている姿だった。 「な、なっ……何やってんだよ、お前っ!」 「あれ……炎樽くん。どうしたの、具合悪い?」  涙目になった彰良先輩が俺の方を見て、その甘い果物のような唇を開く。 「俺はちょっと体育のサッカーで転んで、擦り剥いちゃって。……カッコ悪い所を見られたかな?」 「あ、あぁ……彰良先輩……!」  丸椅子に座って片脚を持ち上げている彰良先輩。俺は初めて見る先輩の「男」の部分から目が離せず、口をパクパクさせながら体を強張らせることしかできない。 「炎樽くん、どうしたんだ? 今は授業中だろう?」  俺の反応を見てサバラが口元をニヤつかせている。──全てを理解している顔だ。 「具合が悪いなら見てあげるから、彰良くんの傷の消毒が終わるまで、そこに座って待っていられるかな」  わざわざ彰良先輩が片脚を持ち上げた正面に椅子を引いて、サバラが言った。握った拳が震えるが、ここでサバラを殴ったら先輩を怯えさせてしまう。先輩の中でこの夢魔はあくまでも「赴任してきた新しい保健室の先生」なのだ。 「っ、……」  俺はなるべく先輩の方を見ないように視線を外して椅子に座り、悔しさに唇を噛みしめた。 「炎樽くん、具合悪いの? 大丈夫?」 「い、いえ。ちょっと気分が悪くなっただけなので……平気です」  こんな時でも優しい彰良先輩は俺にとっての聖天使。絶対によこしまな目で見ることは許されない。 「炎樽くん。先輩が話しかけてるんだから、ちゃんとしっかり先輩の方を見て答えないと失礼だよ」 「………」  そしてこの大馬鹿スケベ夢魔野郎は、マカロが言っていた通りめちゃくちゃ性格が悪い奴なのだと改めて実感した。  彰良先輩が出て行ったら、絶対に一発喰らわせてやる。

ともだちにシェアしよう!