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ねずみ万歳。

「明けましておめでとうございます」 「今年もよろしくお願い致します」 リビングのラグの上、お互いの膝を突き合わせ恒例の挨拶をする。 おせちも鏡餅もなく、正月らしさは何もないながら俺たちにはこれで充分だ。 遥さんの作ってくれたお雑煮を、遥さんが驚くほど食べ、華さんの差し入れしてくれたおせちもどきに箸は伸ばせなかった。 たいして面白くもないテレビを流し見している遥さんの横顔。 それを見ていられる日常の幸せを一人噛み締める。 「遥さん」 「ん?」 「今年は何どしですか?」 「へ?ねずみ?」 「ねずみは何て鳴くでしょう」 「……………ちゅー?」 待ってました。 ちゅーの形になっている唇にチュッとキスをした。 呆れた顔で遥さんが俺を見る。 「お前…」 言いかけてふはっと笑う。 今年も大好きです。 「ねずみは何て鳴くんだっけ」 「ちゅー!」 遥さんがチュッとキスをしてくれる。 少し照れて赤くなった耳がとても可愛い。 いつまでも可愛い。 「どこかにねずみの耳のカチューシャとかないですかね」 「あるんじゃないの、激安の殿堂とかに」 「ちょっと俺出掛けてきます!」 「いーけど、俺つけねーからな」 俺の魂胆など全てお見通しだった。 激安の殿堂を諦め、後ろから遥さんを抱き締めソファに座る。 「拗ねんなよ」 「拗ねてません…」 「侑司」 「はい……」 遥さんが俺を振り返る。 顎を擽るように指が触れる。 「ねずみは?」 「ちゅー…」 ちゅーの形になった唇にがぶっと噛み付かれた。 「あんま拗ねてると噛むぞ」 「もう噛んでるじゃないですか」 「噛むのとちゅー、どっちがいい?」 「そりゃ、ちゅーの方がいいです!」 ムキになって答えた俺を遥さんがまたふはっと笑う。 「ねずみは?」 「ちゅー♡」 その日、飽きることなくそのやり取りを繰り返した。 今年も幸せな年になりそうです。

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