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おまけ・オレと先輩と姉ちゃんと(完)
先輩と本当に付き合うことになった翌日。
本当は罰ゲームにかかわった先輩方から、オレはいつもの屋上で今まで罰ゲームだったと告げられる予定だったらしい。
だけどいつものように集まった先輩方に、東条先輩が実はオレが罰ゲームと知ってたことや本当に付き合うことになったことを報告したもんだから、皆口を開けたまま絶句していた。
変なゲームをけしかけた人たちだが根は優しい人たちなので、
「お前のことは気に入ってたから…罰ゲームのことは悪かったと思ってるけど、結果こうなったなら良かった」と、皆驚きながらも祝福してくれた。
正直、オレは先輩方に伝えることをめっちゃ緊張していたので、こんなにあっさり認められてなんだかすごく拍子抜けしたけど…祝福してもらえて、すごく嬉しかった。
「先輩、今日姉ちゃん出かけるらしいんで、家きますか?」
「え、いいの?!行く行く!」
あれから数か月が経ち、オレと先輩は順調におつきあいを進めている。
…と言っても今まで通りな感じで、周りに付き合ってると言うこともなく、登下校も極力別々なので、罰ゲームにかかわった人以外はオレたちが付き合ってるどころか、知り合いであることさえ知らない。
もちろん姉ちゃんにも言ってないので、先輩が家に来たことは何回かあるが、それはいつも家族がいない時にちょっぴり来る程度なのだ。
姉が出かけた後に自宅付近の人気のない場所で待ち合わせ、一緒に家へと向かう。
たとえ人気のない場所と言えど外で手をつないだりはしないようにしているので、先輩が買ってきてくれたお菓子や飲み物の入った1つのビニール袋の持ち手を、お互いに一個ずつ持って荷物で繋がるようにして歩いた。
歩くたびにビニール袋ががさごそ音をたてたり引っ張られたりするが、そんなことが嬉しくて楽しかった。
少し歩いて家へ着き、カギを開けて玄関へ入ると、そこにはあるはずのない見覚えのある靴が。
(え…?)
嫌な予感に靴を凝視し立ち止まるが、後ろから先輩がいつも通り入ってきてドアを閉める。
「……どうしたの、翼?」
家の中へと上がらないオレを先輩が不思議そうに見ているが、オレが返事しようと先輩へ顔を向けた瞬間、オレよりも早く別の声が聞こえた。
「あ、翼おかえ……え?東条君!?」
そこには、もう出かけて家にいる筈のない姉の姿が。
「…なんで姉ちゃんいるの?さっき出掛けたはずじゃ…」
「うっかり携帯忘れちゃって…てかなんで東条君?やっぱり翼仲いいんじゃん!…あ、私翼の姉で、C組の鈴木雛っていいます」
そう言って姉ちゃんはオレの左後ろにいる東条先輩へ視線を移した。
そのにこやかな表情の顔は、弟のオレとしては見慣れてしまっているが、世間一般では美人に分類される綺麗な顔。
…そして、先輩の昔好きだった人。
(…どうしよう)
先輩を家族のいない時にしか家に呼ばないのは、同性同士と言うのもあるけど…でもそんなのは友達とか先輩とか言っとけば誤魔化せるワケで。
1番の理由は、姉ちゃんだった。
先輩はオレの中に姉ちゃんの面影を見たりしてないとは言ってくれたけど…それでも先輩が昔好意を寄せていた、美人な姉。
だから姉ちゃんに実際に会って近くで見たら、やっぱり姉ちゃんの方がいいって言われてしまうんじゃないかと、本当は不安だった。
…オレはいつだって姉ちゃんと比べられて、顔だって、勉強だって運動神経だって…なんでも姉ちゃんに劣ってることは自分でも理解してたから。
だから姉ちゃんとは、なるべく会わせたくなかった。
(先輩の反応見るの怖くて振り向けない…)
そんなオレの反応を知ってか知らずか、先輩はオレの隣に並んで、姉ちゃんと距離を縮めて話し始めた。
「はは。知ってるよー、雛ちゃん可愛くてめっちゃ有名だもん」
「え、うそ!またまたー」
「ほんとだよー。てか雛ちゃんがオレのこと知ってる方が驚きだよー」
「東条君もカッコいいから知らない人いないよー!髪の毛も超目立つし!」
「あ、そっか。髪の毛かぁ」
「あ、よければ連絡先教えてもらっていい?」
「うん、もちろんー」
携帯を近づけて連絡先を交換し始めた2人をみてズキリと胸が痛みながらも…お似合いだなぁとか思ってしまう自分がいる。
見ていられなくなって俯いたオレに、連絡先を交換し終えた先輩の明るい声がやけに大きく聞こえた。
「あ、いけね。オレちゃんと自己紹介してなかった。改めまして、オレE組の東条至です。翼の彼氏としてお付き合いさせてもらってます。今後ともよろしくお願いします」
「え…?」
思わずガバっと顔を上げた先にあった先輩の笑顔と、姉ちゃんの固まった顔を、オレは一生忘れないと思った。
姉ちゃんが呆然かつオレに何か言いたげな顔をしながらも「やばい、約束の時間が…!」と慌てて家を後にしたので、オレと先輩はオレの部屋へと移動する。
先輩は数回しか来たことないが、荷物を下ろしてから、定位置となってきたベッドの前に腰を下ろした。
「雛ちゃんいたから、マジビックリしたー」
「そう、ですね…」
「やっぱり2人そろってみるとすごく雰囲気似てるねー」
「そうですかね…」
そう返事をしながら顔を合わせることなく買い物袋の中身を取り出し始めたオレの手を、先輩がぐいっと止めた。
「……ごめん。勝手に彼氏って言っちゃって。内緒にしてたのに…ごめん」
そう言われてやっと視線を先輩に向けると、先輩はあの日と同じような情けない顔をしていた。
慌ててオレはオレの手を掴んだままの先輩の手に空いてるほうの手を重ね、しっかり先輩と向き合う。
「…いえ…オレ、嬉しかったです。姉ちゃんにオレの彼氏って、そう言って貰えて…。ずっと、姉ちゃんに会って、やっぱり姉ちゃんの方がいいって言われたらどうしようかと思ってたから…だから…」
さっきからずっと嬉しすぎて涙を溜めたままの顔を向けてそう告げると、先輩は一瞬きょとんとしてから、優しく微笑んだ。
「…オレが昔雛ちゃんのこと好きって言ってたこと気にしてたの?前にも言ったけど、オレが好きなのは翼だけだよ。キスしたいのも、抱きしめたいのも、全部翼だけ」
そう言い終わると同時に、ギュッときつく抱きしめられ、ずっと我慢していた涙がほろりとこぼれる。
「先輩、好きです…」
「オレも好き」
「…オレのが好きです」
「なにそれ。多分オレのが好きだよ?」
そんな風に先輩の愛を実感しながら幸せに浸っていたオレは、その時知らなかった。
―…自分の携帯に姉から何十件も「どういうこと?!」「詳しく教えなさい!!」とメールが届いていたなんて。
終 2015.7.12
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